板廂いたびさし)” の例文
老朽おいくちてジグザグになつた板廂いたびさしからは雨水がしどろに流れ落ちる、見るとのきの端に生えて居る瓦葦しのぶぐさが雨にたゝかれて、あやまつた
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「ごらんの通り荒れ果てております。荒れてなかなかやさしきは不破の関屋の板廂いたびさし、と申す本文には合い過ぎておりますが……」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くるわの真中に植わった柳に芽が吹き出す雪解けの時分から、くろ板廂いたびさしみぞれなどのびしょびしょ降る十一月のころまでを、お増はその家で過した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大瓶おおがめの水も凍り、板廂いたびさしから剣のような氷柱つららが垂れている寒空の冴えた夜半だった。——ふと、裏のおおきな木のうえを仰ぐと、それへじのぼっている人間がある。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問屋場からの出がけにも、彼は出入り口の障子の開いたところから板廂いたびさしのかげを通して、心深げに旧暦四月の街道の空をながめた。そして栄吉の方を顧みて言った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仲間対手の小さい、おでんと、燗酒かんざけの出店が、邸の正面へ、夕方時から出て店を張っていた。車を中心に柱を立てて、土塀から、板廂いたびさしを広く突き出し、雨だけはしのげた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そうした門構えを入ると、本堂の阿弥陀様と背中合わせの板敷土間に破れ畳の二畳敷、竹瓦葺の板廂いたびさし、ガタガタ雨戸に破れ障子の三方仕切は、さながらに村芝居の道具立をそのまま。
の、いま、鎭守ちんじゆみやから——みちよこぎる、いはみづのせかるゝ、……おと溪河たにがはわかれおもはせる、ながれうへ小橋こばしわたると、次第しだい兩側りやうがはいへつゞく。——小屋こや藁屋わらや藁屋わらや茅屋かやや板廂いたびさし
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
老朽おいくちてジグザグになった板廂いたびさしからは雨水がしどろに流れ落ちる、見るとのきの端に生えている瓦葦しのぶぐさが雨にたたかれて、あやまった
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不破の古関のあとに近く、その板廂いたびさしの屋の棟の見ゆるところまで来て、弁信法師が、はたと歩みをとどめました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石ころの多い坂道に沿い、行儀の悪い歯ならびのように、こけの生えた板廂いたびさしが軒を並べていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの如くして、美濃の国の関ヶ原の不破の関屋の板廂いたびさしの下に暫く身をとどめて、心をいやしておりましたが、その間に、読書もすれば、人事をも考えていました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
奥のほうばかりうかがって、案じていたが、ふと、縁の傍らの連翹れんぎょうや山吹の花が、ゆさと大きく揺れたかと思うと、いつか墨をながしていた空から、板廂いたびさしをかすめて、ポツリと雨が落ちて来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関ヶ原までそうではございませんか、荒れてなかなかやさしきは、不破の関屋の板廂いたびさし——この通りいいお月夜でございますから、かえって、この良夜を寝物語に明かそうより
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)