ぼく)” の例文
が、その後約一年の後、私がぼくと同棲してから、徐も私達のグループになって、一緒に機関紙を出したり、運動したりした。
なんの鋭さもない抗弁だが、高徳の吶々とつとつという言には、五郎と違うねばりがあった。ただのぼくとつかんとばかり彼を見ていた五郎は急に高徳を見直していた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親父おやぢにも、せがれにも、風景にも、ぼくにしてを破らざること、もろこしのもちの如き味はひありと言ふべし。その手際てぎはあざやかなるは恐らくは九月小説中の第一ならん
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
甲子夜話かっしやわ」には、慶長けいちょう十二年の朝鮮の使にまじっていた徳川家の旧臣を、筧又蔵かけいまたぞうだとしてある。林春斎の「韓使来聘記かんしらいへいき」等には、家康にえっした上々官をきんぼくの二人だけにしてある。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
朝鮮人をすべて高麗人と呼ぶのは昔からのならわしである。今も半数は鮮姓を承ぎ、ちんさいていぼくきんりんべん等昔のままである。明治までは特殊な部落であって雑婚を堅く封じられた。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
みやげ、印伝、水晶だの、百草ひゃくそうだのを売ってる町家に交って、ぼくにしてけいなる富士道者の木彫人形を並べてあるのが目についた。近寄って見たら、小杉未醒原作、農民美術と立札してあった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
随園ずいえん詩を論じて大巧たいこうぼく濃後のうごたんとを以ってよしとなす。真に金言なり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おこされる迄もない事であると心では可笑をかしく思つて居た。同室の人はこれも頼んであつたボオイにおこされて夜明よあけの四時頃に降りて行つた。莫斯科モスコオのグルクスの停車場ステエシヨンには朝鮮人のぼく氏が来て居てれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その心にみえるぼくとつな武人気質ぶじんかたぎや朝廷を思う一途いちずな意気もわかって、高氏は、それにはそれへの尊敬をもった。また副将の彼の苦しい立場にも同情した。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口重くちおもげで、もの言いぶりも吶々とつとつと、風貌からして、ぼくとつな武人である。年齢は四十がらみ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帝王、貴紳、武門、どこに生れても輪廻りんねまぬがれ難い土牢の魔の口がいつも身辺にあったといえよう。宮を殺害した武士淵辺なども根は愚直なほどぼくとつな人間だったに相違ない。
と、中国なまりそのまま、ぼくとつなあいさつをしてみせた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)