曲彔きょくろく)” の例文
外にたたずんでいたのは、昼間、ただひとりで曲彔きょくろくに腰かけていたあの老僧だ。骨と皮ばかりのような彼の細い影であった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの曲彔きょくろくにいとも気高く腰打ちかけながら、悠然として、その姿をのぞかせたのは、ぐずり松平の御前です。
木寄師の仕事はこのほかに天蓋の鉢、椅子いす曲彔きょくろく、須弥壇、台坐等をやる。なかなか大変なものである。
八端はったんのねんねこを引っかけて、曲彔きょくろくによりかかり、高脚コップのお酒を飲みながら腕を裂かれていた。
母親が曲彔きょくろくを立つて、花の中で迎へたところで、哥鬱賢は立停たちどまつて、して……桃の花のかさなつて、影もまる緋色の鸚鵡おうむは、お嬢さんの肩から翼、飜然ひらりと母親の手にまる。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
曲彔きょくろくる住持の三要は正面にひかえ、東側は大衆大勢。西側に昭青年一人。問答の声はだんだん高くなって行きます。衣の袖をたすきに結び上げ、竹箆しっぺいしゃに構えた僧も二三人見えます。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
曲彔きょくろくに片肘を突いて居り、その手の腕から指にかけて、熊のように毛が生えていた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
正面の高い所にあった曲彔きょくろくは、いつの間にか一つになって、それへ向こうをむいた宗演そうえん老師が腰をかけている。その両側にはいろいろな楽器を持った坊さんが、一列にずっと並んでいる。
葬儀記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
席次不同に思い思いの座を占めてはいるが、高声こうせいに語るもの、笑うものは一人もなかった。僧は皆紺麻こんあさ法衣ころもを着て、正面の曲彔きょくろくの左右に列を作って向い合せに並んだ。その曲彔は朱で塗ってあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると老僧は、曲彔きょくろくにかけていた枯木のようなひじを上げて、後ろの祭壇や、壁や四方をいちいちさして
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曲彔きょくろくの上からその品々を見るような見ないようなおまなざしで、いとも鷹揚おうようにじろりとやると、おっしゃったお言葉がまた、この上もなく松平の御前らしい鷹揚さでした。
主人は白い長い腭鬚あごひげをひっぱり、黒ちりめんの羽織で、大きなしとねに坐り、銀の長ぎせるで煙草タバコをのみ、曲彔きょくろくをおき、床わきには蒔絵まきえ琵琶びわを飾り、金屏きんびょうの前の大がめに桜の枝を投げ入れ
信長は、そこにすえてある一脚の曲彔きょくろくを指さした。禅家で用いているそれはちょうどよい椅子いすになる。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葵の御定紋もいかめしい朱塗り造りの曲彔きょくろくに、いとも気高く腰打ちかけながら、釣るがごとく釣らざるがごとくに何とはなく竿を操り、右に控えたお茶坊主は金蒔絵きんまきえしたる餌箱をうやうやしく捧持ほうじして
ここ宝珠寺の本殿ほんでんでは、時に、三人の怪人が、三ツの曲彔きょくろくに、片胡坐かたあぐらを組みあっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ついに花和尚も、その重たげな巨躯きょくを、のしッと、腰かけていた曲彔きょくろくから上げた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間もなく、山門のひさしは、ばらばらとくずれ、火塵かじんはまるで華火はなびのように噴きあげて、快川の影も、だんだん黒く変ってきたが、しかもなお曲彔きょくろくに懸ったまま倒れもせずに楼上にあるではないか。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何もない堂の真ん中に、曲彔きょくろくに腰かけている骨と皮ばかりな老僧がいた。しかし老僧は眠っているのか、死んでいるのか、木乃伊ミイラのように、空虚うつろな眼をうつばりへ向けたまま、寂然じゃくねんと——答えもしない。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)