暴風しけ)” の例文
この一こう五十二艘の大船は、はじめはつつがない海路にみえたが、やがて遠州灘えんしゅうなだにさしかかったとき、大きな暴風しけに出会ってしまった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこからもここからもかなたからも吹雪の竜巻が嵐を呼んであるいは地を這い空に昇って晴朗であった今日の日が、暴風しけの姿を現じて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今日の暴風しけは只事じゃあございませんぜ、永年海で苦労した俺共わっしどもにも見当がつかなかったくれえだから、こりゃ海の神様のたたりに違えねえ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ええ。お父さんが漁に出て、暴風しけで、帰ってこなかった時、お母さんと二人で、じっと波の音をきいてた時のこと、いつまでも覚えていますの。」
食堂にさふらひしに我卓の長者三重みへ機関長の君、奥様のお強きことよ、されどこはいまだ少しの暴風しけなりと申されさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
鐘は全部尖塔の頂にあるくぼみの中に隠れていて、大鐘のすそが塔の窓にチョッピリのぞいているくらいなんですから、どんな暴風しけにでもビクともしませんぜ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「まず糞壺さ引きあげるべ。そうするべ。——非道ひでえ奴だ。ちゃんと大暴風しけになること分っていて、それで船を出させるんだからな。——人殺しだべ!」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
お馨さんは、上総かずさの九十九里の海の音が暴風しけの日には遠雷の様に聞ゆる或村の小山のふところにある家の娘であった。四人の兄、一人の姉、五人の妹を彼女はって居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あれよりもずっと立派な五本マストの帆船や大きな汽船が暴風しけくらって避難港をさがしている時でも、彼船あれは平気なんだからね。ところで君は船に乗った経験があるかい?
為吉が眼を覚ました時は、暴風しけも凪ぎ、夜も明けかかって、船は港内に錨を下していた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「なお、おい、源公。乗合い舟が暴風しけをくらったようなものよなア。おれとおめえは、なんのゆかりもねえが、ここだけアいっしょになって、こいつらを叩っ斬ろうじゃアねえか」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「まあ/\、落ちついて口をきけ。本物の八幡様が暴風しけで吹っ飛ぶか?」
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この前の船長で、しこたまこれを持ってた柿沼って野郎を、あっしが暴風しけの晩に海ん中へ叩ッ込んで、ユダみてえに掴み込んでやがった金をすっかりひったくったのを二人が嗅ぎ付けてしまったんだ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ありゃきっと暴風しけになると思うて逃げて行ったのに違いなかろう。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
暴風しけはやむを得ないが、食料がなければ船は死刑台だ。
暴風しけをくらつた土砂ぶりの中を
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
暴風しけをくらつた土砂ぶりの中を
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
早くも暴風しけくと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その大波の度がふえるにつれて、潮鳴、潮風、帆のはためき、どうやら暴風しけきざしがみえる。と気がついた頃には、船の揺れ方も尋常ではない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふざけちゃいけないよ、やい、ふざけやがるない、こんな暴風しけが起ったのは時の災難だよ、なにもわたしが船に乗ったから、それで暴風が起ったんじゃないや。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうだなあ……二年前、おれの乗ってた船が暴風しけにあって、沈んでしまい、おれは海の上にほうり出されて、まっ暗な夜、板一枚にしがみついて流された時は、こわかった」
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ことに、その晩は猛烈な暴風しけで、海全体が石鹸の泡のようにき騒いでいた。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
なあ、お絃、久しく暴風しけつづきだな。きょうあたり、大きな喧嘩やつ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「これはこうしてはいられぬわい。どうやら暴風しけになったらしい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それでも、暴風しけになる時には、いつでも白山が見えるもの。」
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
「あ、うさぎが飛んでる。——これア大暴風しけになるな」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
指を繰ってみると、ちょうど沼島ぬしま沖で四国屋の船が暴風しけをくった日から四、五日後に持ちこんだ勘定になるンです
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この船の中で、女のお客はお前さんだけなんですね、今まで女一人のお客というのはなかったこの船に、今日に限ってお前さんが乗り込むとこの通りの暴風しけだ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あのう、ほら暴風しけうた船を助けた褒美だよ。」
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
そこで西湖の花木竹石かぼくちくせきちんを大船に積み、黄河こうがを下ってきたところが、運悪く、途中でひどい暴風しけい、ついに役目も果し得ず、面目なさに、そのまま田舎に身を隠しておるうち
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの晩の暴風しけと、弦之丞の運命が窮極にまで行ったと見えたことが、それから後、二月ふたつきあまりの経過とともに、すっかり阿波の要心をゆるませ、かなり目ばしこい三位卿にしてからが、一度は
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう一月あまりも前なんで、すっかり忘れていたけれど、ちょうど、客人のいった頃にあたるよ。小雨がソボソボ降っていた、暴風しけあがりからズッと降り通しで、部屋の者も仕事がなしで、早く床についた晩なのさ」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(ほう、これは大浪おおなみだ。ただ暴風しけではないぞ)
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)