ゆる)” の例文
人生のすいな味や意気な味がお糸さんの声に乗って、私の耳から心に染込しみこんで、生命の髄に触れて、全存在をゆるがされるような気がする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ちゝなるものは蚊柱かばしらたつてるうまやそばでぶる/\とたてがみゆるがしながら、ぱさり/\としりあたりたゝいてうままぐさあたへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
天地をゆるがす喊声かんせいとともに胡兵こへいは山下に殺到した。胡兵の先登せんとうが二十歩の距離に迫ったとき、それまで鳴りをしずめていた漢の陣営からはじめて鼓声こせいが響く。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そして、世界をゆるがす愛の大波は、頭から足先まで彼女を抱きしめ、彼女を巻き込み、彼女を天までもち上げた……。おう神よ、を産む女は汝にも匹敵する。
醒めたるあとにもなお耳を襲う声はありて、今聞ける君が笑も、よべの名残かと骨をゆるがす
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西風にしかぜかはちるとき西岸せいがんしのをざわ/\とゆるがす。さら東岸とうがん土手どてつたうてげるとき土手どてみじか枯芝かれしば一葉ひとはづゝはげしくなびけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
左右に低き帆柱を控えて、中に高き一本の真上には——「白だッ」とウィリアムは口の中で言いながら前歯で唇をむ。折柄おりから戦の声は夜鴉の城をゆるがして、淋しき海の上に響く。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
りつけるやう油蝉あぶらぜみこゑ彼等かれらこゝろゆるがしてははなのつまつたやうなみん/\ぜみこゑこゝろとろかさうとする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
折から遠くより吹く木枯こがらしの高き塔をゆるがして一度ひとたびは壁も落つるばかりにゴーと鳴る。弟はひたと身を寄せて兄の肩に顔をすりつける。雪のごとく白い蒲団ふとんの一部がほかとふくかえる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)