掻寄かきよ)” の例文
遺書と聞いたとき良三郎はびくりと足を縮めた、それから起直って衿を掻寄かきよせ、暫く封書の裏表を眺めたのち、震える手でそれを披いた。
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昔しの法令条目の枯葉を紙上に掻寄かきよせしとは殊にて、今は活溌々たる政界の運動、文学美術に係る新現象の批評など、彼此と結びあはせて、力の及ばん限り
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なぜなら、彼女は自分の顔に砂のとびかかるのも知らぬ気に美しい爪を逆立てて掻寄かきよせていたのだ——。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
折れたる熊手くまで、新しきまた古箒ふるぼうき引出ひきいだし、落葉おちば掻寄かきよせ掻集め、かつ掃きつつ口々にうたう。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何とすごからう。奴を捩伏ねぢふせてゐる中にあし掻寄かきよせてたもとへ忍ばせたのだ——早業はやわざさね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私たちは散った花びらを掻寄かきよせて遊びました。女の子たちが続けて休むのを、病気かと思いましたら、掛茶屋へ手伝いに行くのだそうです。雨の日には皆来るので、それが分りました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
掻寄かきよせられた落葉は道の曲角に空地も同様に捨てられた墓場のすみ、または赤土の崩れから、杉の根がせひからびた老人の手足のように、気味わるくい出している往来際に、うず高く積み上げられ
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「うむ。」と腰をのばして老婆は起き、「やれ、汚穢むそうござります。」藁屑わらくず掻寄かきよせて一処ひとつに集め
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掻寄かきよせたあとが小高くなッてて、その上へ大きな石が乗ッけてあって、そこまで小銀が辿たどってくと、一条ひとすじ細うく絶々たえだえに続いていた胡麻のあとが無くなっていたでしょう。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くだん大笊おおざる円袖まるそで掻寄かきよせ、湖の水の星あかりに口を向けて、松虫まつむしなんぞをくすぐるやうにざるの底を、ぐわさ/\と爪で掻くと、手足を縮めてかいすくまつた、あかだらけのきたない屑屋が、ころりと出た。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ステッキ掻寄かきよせようとするが、すべる。——がさがさとっていると、目の下の枝折戸しおりどから——こんなところに出入口があったかと思う——葎戸むぐらどの扉を明けて、円々まるまると肥った、でっぷりもの仰向あおむいて出た。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いい次ぎつつ、おさわの落葉を掻寄かきよするに、少しずつやや退すさる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)