手練しゅれん)” の例文
これは米友の手練しゅれんだから、どうも仕方がありません。無法で突くのと、手練で突くのとの相違は、心得さえあれば直ぐにわかるはず。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
恐らく、兵さんから、あの特種な、鰻取りの技倆ぎりょうと、泳ぎの手練しゅれんを除いたら、あの男は、或いは、世間の人から撲殺されたかも知れない。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
帯さへ解かざる手練しゅれん早業はやわざ流行せしかば、一時禁止となりしがほどもなく再興して三囲の古き仲間に合体せし由。これは大正七、八年の頃なるべきか。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
河舟かわぶねの小さなのが岸につないであった。豊吉はこれに飛び乗るや、ともづなを解いて、みざおを立てた。昔の河遊びの手練しゅれんがまだのこっていて、船はするすると河心かしんに出た。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おそらく叡山えいざんかどこかの、屈強な荒法師の手練しゅれんにちがいない。死神の手のように、それははやかった。
曲者くせもの手練しゅれんが、たった一突きで心臓をえぐったので、殆ど苦痛を訴える隙もなかったのであろう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三人の探偵は経験もあり手練しゅれんの刑事で、ルパンを仇敵のように思っている者ばかりであった。
それにしても恐ろしい手練しゅれんで、匕首を抜かなかった所為せいか、ろくに血も出ておりません。
見事な手練しゅれんと早技とで、捕虜達をしばっている荒縄を、ぶつりぶつりとたち切りました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ここが手練しゅれん、イヤイヤ、武芸の極意というものだ。ニコヤカに何でもないような、むしろダラシないような歩きッぷりだが、この裏にある心法兵法武術の錬磨はいと深遠なのである。
こほりをば引外ひッぱづして右手めて附入つけいりまする手練しゅれん切先きっさき、それを撥反はねかへすチッバルト。
間もなく新太郎君は神経衰弱を忘れ、寛一君は店を忘れて手練しゅれんの程を示し始めた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
最前からの山冷やまびえにて手足も凍え、其の儘に打倒うちたおれましたが、女の一心、がばと起上り、一喝いっかつ叫んでドンと入れました手練しゅれん柔術やわら、一人の舁夫はウームと一声ひとこえ、倒れるはずみに其の場を逃出しました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さすが喧嘩を売るほどあって手練しゅれんあざやかに投げの一手、発止はっしとばかりまったが、こはそもいかに相手の武士も、武芸無双の勇士と見え、ひらりと体をひるがえし、スックと地上に立ち上がった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
固いということは、女に接する機会がない間に限ったことで、相当の手練しゅれんを以てすれば、男は必ず色に落ちて来るものである。
覆面の黒装束へもおそいかかった。姿すがたはほっそりとしているのに、手練しゅれんはあざやかだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手練しゅれんの捕り縄、いかがのものかと、お目にかけたんでございますよ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「恐ろしい手練しゅれんだ」
竜之助のために蛙を叩きつけられたような目に会い、幸い泥田であったとはいえ、手練しゅれんの人に如法にょほうに投げられたのですからたいの当りが手強てごわい。
せんかならず一人を斬り、一気かならず一を割る、手練しゅれんの腕は、超人的ちょうじんてきなものだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手捕てどりにしようとして我れ勝ちにのぼって来るのを上で米友が手練しゅれんの槍。と言ってもまだ穂はつけてないから棒も同じこと。
忍剣は、あまりなかれの大胆だいたん手練しゅれんに目をみはった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立ち止まるかと思うとかの男は身をひるがえして逃げようとするのを、竜之助は脇差わきざしに手をかけて手練しゅれんの抜打ち。
竜之助は大兵の男の荒っぽい剣術ぶりを笑止しょうしがって見ているうちに、少年は右へ左へ前へ後ろへ、ほどよくあやなす手練しゅれんと身の軽さ。そのうちになんとすきを見出したか