手洗鉢ちょうずばち)” の例文
うめ手洗鉢ちょうずばちじゃあるまいし、乃公を叩いたって森川さんが帰って来るものか。けれども此は一のかなしき過失に外ならない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
左側の石の手洗鉢ちょうずばちにはいつも綺麗な水があふれていて、奉納の手拭てぬぐいの沢山下がっているのには、芸者の名が多く見えました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あれも手洗鉢ちょうずばちの側へ普通石鹸せっけんの外にアルボースのような殺虫石鹸を備えておいたらば手を洗っても心持がいいでしょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
勿論もちろん俳味をもっぱらとする処から大きな屏風びょうぶや大名道具にはふだを入れなかったが金燈籠きんどうろう膳椀ぜんわん火桶ひおけ手洗鉢ちょうずばち敷瓦しきがわら更紗さらさ
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その晩は珍らしい大雪の翌日で、夜中に、雨戸一枚を繰り手洗鉢ちょうずばちにかがんだが、銅の手杓もてあがっていた。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
こう考えたので、彼は、一応、屋敷のぐるりを見て置こうと決心し、幸いに、手洗鉢ちょうずばちのそばの沓脱くつぬぎに、庭下駄が一足あったので、それを突っかけて、奥庭の上に出た。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
間もなく、むこうのほうで手洗鉢ちょうずばち柄杓ひしゃくをガチャガチャいわせていたが、のそのそと戻って来て
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
旧幕のころであった。江戸の山の手に住んでいるさむらいの一人が、某日の黄昏ゆうぐれ便所へ往って手を洗っていると手洗鉢ちょうずばちの下の葉蘭はらんの間から鬼魅きみの悪い紫色をした小さな顔がにゅっと出た。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お徳は縁先にある手洗鉢ちょうずばちの水でもぶッかけてやりたいほど、「うるさい、うるさい。」と言っていながら、やっぱり猫のような動物の世界にも好いた同志というものはあると知った時は
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わずかに戸袋の側の手洗鉢ちょうずばちの下に、南天なんてんが一株ありますが、それといっても、人間が潜りもどうも出来るほどのものではなく、狭い場所一パイに建てた家で、たった一つの庭木戸のほかには
「順礼に」にて、柄杓を左手にてぬきとり、これに手裏剣を受け止め、下手に廻り「御報捨」にてそを右手へ取直してわずかにささげ、左手は手洗鉢ちょうずばちの縁にかけ、さげすみたる笑にて幕となる。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
手洗鉢ちょうずばちの水を、南天の葉へチョッチョッとかけて、手拭てぬぐい掛けに手を伸ばしながら、さて、おもむろに庭の秋色を眺め廻した後、机の抽斗ひきだしから薬草の胚子たねらしいものを取り出して庭へ下りた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「朝顔が咲くのを見たわ」おふさは夜具の中で参太の手を引きよせた、「手洗鉢ちょうずばちの脇の袖垣そでがきからまってるの、なにか動くようだからひょいと見たのよ、そうしたら朝顔の蕾が開くところだったの」
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「……そら、キンキラキン、かね手洗鉢ちょうずばち、胸突ガンギに桜馬場、それもうたい、キンキラキン、キンキラキンのガネマサどん、ガネマサどんの横這よこびゃびゃあ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、湯呑みを持って行って縁先から、手洗鉢ちょうずばちの水をすくってくる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と千吉君は手洗鉢ちょうずばちで手を洗って来た。早速不断着に替えながら
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)