急勾配きゅうこうばい)” の例文
十一丁目までの間は、壁にのぼるような急勾配きゅうこうばい。それから道はゆるやかになって、そこで駕籠屋たちも無駄話をする余裕が出来ました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幾丈とも知れない地下で、地上からの穴は急勾配きゅうこうばいなのだから、闇のなかに、どこやらかすかに外光がいこうがただよっているにすぎない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
られた捕縄とりなわを、舌うちしながら、キリキリ手元へ巻き込んで、崖ぎわから、削り立った急勾配きゅうこうばいを、残念そうにのぞいていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
改築中で割栗石わりぐりいし狼藉ろうぜきとした停車場を出て、茶店さてんで人を雇うて、鶴子と手荷物をわせ、急勾配きゅうこうばいの崖を川へ下りた。暗緑色あんりょくしょくの石狩川が汪々おうおうと流れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
要害山の山頂は広くはない、半円をなした台地の三方はすぐに急勾配きゅうこうばいの斜面で、密生した灌木かんぼくと雑木林の間に、ところどころ松の大木がぬきんでて見える。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
中は真っ暗になったけれども、よう/\匍匐ほふくして進める程度の坑道が大体爪先つまさき上りに、或る所では急勾配きゅうこうばいの石段になったりして自然に導いてくれるのであった。
N駅の少し手前で汽車が急勾配きゅうこうばいにさしかかって、速力をウンとゆるめる場所があります。僕らはそこで土手の下へ飛び降りる予定なのです。これが最後の冒険ですよ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
急勾配きゅうこうばいを登る時に両方の耳が変な気持ちになる。気圧が急に下がるからだという。つばを飲み込むと直る。ピークで降りるとドンが鳴った。涼しい風が吹いて汗が収まった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
椋島技師は、午前十時のバアのドアを無雑作に開くと、ツカツカと奥へ通り、そこに二階に向ってかけられた狭い急勾配きゅうこうばい梯子段はしごだんの下に靴をぬぎとばすと、スルスルと昇って行った。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
転げだした。実にとめどもなく急勾配きゅうこうばいをころげていた。一刹那のようでもあったし、ひどく長い時間のようでもあった。ずしんと横にたたきつけられ——彼は雪堆せったいのなかに埋まった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
全線中で一ばん危険きけん場所ばしょになっている急勾配きゅうこうばいのカーブにさしかかるにはまだだいぶがあるので、わたしは安心あんしんしてまた腰をおろすと、いろいろと内地の家のことなどを思いだして
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
其処で田園の中央まんなかに家がある、構造はきわめて粗末だが一見米国風に出来ている、新英洲ニューイングランド殖民地時代そのままという風に出来ている、屋根がこう急勾配きゅうこうばいになって物々しい煙突が横の方に一ツ。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こんもりとした森と森の間を抜けると、にわかに胸つきの急勾配きゅうこうばいになって、やがて鼠坂を上がりきると、また一方の森へはいる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その坂は急勾配きゅうこうばいに右へ曲るが、そこからまっすぐに下る道もある。彼は右へ曲った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しあわせにもランプはえなかったが、それといっしょに自分は、列車れっしやれい急勾配きゅうこうばいにさしかかろうとしているなとかんじて、ひやりとした。自分は、ブレーキをまかなければならないのだ。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
おかはさして高くはないが、奇岩きがん乱石らんせき急勾配きゅうこうばい、いちめんにいしげっている落葉松からまつの中を、わずかに、石をたたんだ細道ほそみち稲妻形いなずまがたについている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに柑子坂こうじざか急勾配きゅうこうばいへ上からかかると、俄然
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)