弁疏べんそ)” の例文
旧字:辯疏
この場に及んでも、自己の一身上のための弁疏べんそ哀願は後廻しにして、まず借物にいたみのないようにと宥免ゆうめんを乞うのを耳にも入れず
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これをもってこれを見れば、古来貞操に関するうたがいを受けて弁疏べんそするあたわず、冤枉えんおうに死せし婦人の中にはかかる類例なしというべからず。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それについて孟子が種々と王を追窮したので、売詞うりことば買詞かいことば、王も種々弁疏べんそし牛は死を恐れ、羊は鳴かずに殺さるる由を説くべく気付かなかったのだ。
私はオイッケンのような学者やハウプトマンのような芸術家が今度の戦争の牽強けんきょう弁疏べんそ独逸ドイツのためになさねばならなかったのを気の毒に思っている。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
重吉が自叙伝めいた小説をかいて見たのは、これらの煩悶はんもんを述べて、おのれの行為に対する弁疏べんそにしたものであった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
囚われの上皇光厳こうごん、光明。また崇光天皇は、南朝の廷臣らの詰問に、こう涙して弁疏べんそしたということである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはいずれ生麦なまむぎ償金授与の事情を朝廷に弁疏べんそするためであろうという。この仙台の家中の話で、半蔵は将軍還御かんぎょの日ももはやそんなに遠くないことを感知した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
熱の下がったのに連れて始めて貞世の意志が人間らしく働き出したのだと葉子は気がついて、それも許さなければならない事だと、自分の事のように心で弁疏べんそした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
京兆けいちょういん温璋おんしょうは衙卒の訴にもとづいて魚玄機を逮捕させた。玄機はごう弁疏べんそすることなくして罪に服した。楽人陳某は鞠問きくもんを受けたが、情を知らざるものとしてゆるされた。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
燕王弁疏べんそする能わざるところありけん、いつわりて狂となり、号呼疾走して、市中の民家に酒食しゅしを奪い、乱語妄言、人を驚かして省みず、あるいは土壌にして、時をれど覚めず
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしは、ならば女乞食の背でも撫でゝ弁疏べんそしてやり度い気になります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
例の快弁に似もやらず、吾妻は汗をぬぐひつ、弁疏べんそせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
犬養木堂は、自分の政友会入りを弁疏べんそして
わけて、身がすくむような気がするのは勅使に対しての不敬である。こればかりは、弁疏べんその余地がない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伏見鳥羽ふしみとばの戦さに敗れた彼らは仙台藩せんだいはん等と共に上書して、逆賊の名を負い家屋敷をこぼたれるのいわれなきことを弁疏べんそし、退いてその郷土を死守するような道をたどり始めていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
成功するにつけて、運命に対して謙遜けんそんである必要はない。又失敗するにつけて運命を顧みて弁疏べんそさせる必要もない。凡ての責任は——若しそれをいて言うならば——私の中にある。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「内閣組織に当りて貴族院の勢力を度外視するを得ず」というような見苦しい弁疏べんそを、平民の真の味方である大政党の言論として憲法発布後三十年の今日に聞くに到っては時代の逆行
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
一 おのれいまだ一度ひとたびも小説家といふ看板かけた事はなけれど思へば二十年来くだらぬもの書きて売りしより、税務署にては文筆所得の税を取立て、毎年の弁疏べんそも遂に聴入るる気色けしきなし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「被告ダメス王の鼻よ、汝に於て弁疏べんそせむと欲するところあればすみやかに述べよ」
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
出遅れて、故君のとむらい合戦に会さなかったという一事だけは、何としても弁疏べんその道がない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが何よりも一番簡単で要領を得た弁疏べんそになるのであろう。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)