庵室あんじつ)” の例文
死骸しがいはその日終日ひねもす見当らなかったが、翌日しらしらあけの引潮ひきしおに、去年の夏、庵室あんじつの客が溺れたとおなじ鳴鶴なきつるさきの岩にあがった時は二人であった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヂュリ そのわかにロレンスどのゝ庵室あんじつうたゆゑ、をなご謹愼つゝしみさはらぬかぎりの、ふさはしい會釋ゑしゃくをしておきました。
○秋山中に寺院じゐんはさら也、庵室あんじつもなし。八幡の小社一ツあり。寺なきゆゑみな無筆むひつ也。たま/\心あるもの里より手本てほんていろはもじをおぼえたる人をば物識ものしりとて尊敬そんきやうす。
乳母 では、なう、いそいでロレンスさま庵室あんじつまでかっしゃれ。あそこでおまへ内室うちかたになさるゝひとってぢゃ。
ただ、客人——でお話をいたしましょう。そのかたが、庵室あんじつに逗留中、夜分な、海へ入ってくなりました。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水の底を捜したら、かれがためにこがれじにをしたと言う、久能谷くのや庵室あんじつの客も、其処そこに健在であろうも知れぬ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
したが、マンチュアへはあらためて書送かきおくり、ロミオがおやるまでは、ひめ庵室あんじつにかくまっておかう。不便ふびんや、きたむくろとなって、死人しにんはかなかうもれてゐやる!
こうやって、この庵室あんじつに馴れました身には、石段はつい、かよ廊下ろうかを縦に通るほどな心地ここちでありますからで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とちょいと顔を上げて見ると、左のがけからしいの樹が横に出ている——遠くからながめると、これが石段の根を仕切る緑なので、——庵室あんじつはもう右手めて背後うしろになった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも先代の親仁おやじと言うのが、もう唯今では亡くなりましたが、それが貴下あなた、小作人ながら大の節倹家しまつやで、積年の望みで、地面を少しばかり借りましたのが、わたくし庵室あんじつ背戸せどの地続きで
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)