底力そこぢから)” の例文
と、その細い、かすかな、空を通るかと思う雨の中に、図太い、底力そこぢからのある、そして、さびのついた塩辛声しおからごえを、腹の底から押出おしだして
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口の先きでしゃべる我々はその底力そこぢからのある音声を聞くと、自分の饒舌じょうぜつが如何にも薄ッぺらで目方がないのを恥かしく思った。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「オイみんな。元気を出せ」と警部が低いが底力そこぢからのある声で云いました。「この機にじょうじて一同前進ッ」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、辛抱しんぼうづよくつづけていけば、将来の国民生活の底力そこぢからにはなるよ。目だたない底力にね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
狼藉者ろうぜきものっ」と叱りつけた。声に、ただならぬ底力そこぢからがあって、くろがねのようなこぶしをふりあげると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りやなにしいつちんだ」小柄こがらぢいさんは底力そこぢからこゑひくくしていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
籠の中につまる鰻の底力そこぢからうねりやまずもうららかなれば
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
壮健じょうぶな時と同様にガラガラしていたが、底力そこぢからが抜けていて、一緒に声を合わして笑う事が出来なかった。
つい目の前を、足にからんだ水よりは色の濃い、重っくるしい底力そこぢからのあるのが、一筋、褐色かばいろうろこを立ててのたっているのが、向う岸の松原で、くっきりと際立って、橋の形があらわれたんだ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
螺旋状らせんじやうにほひのわななきと、底力そこぢからのはづみと
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
出合であはせた女中ぢよちうに、きなれない、かうすこかすれたが、よくとほ底力そこぢからのある、そしてしたしいこゑおとづれたひとがある。「あ、ながしさん。」わたしこゝろづいてした。はたして松本長まつもとながしであつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二葉亭はたちま底力そこぢからのある声で「明月や……」とうなって、や暫らく考えた後
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)