市中しちゅう)” の例文
春章しゅんしょう写楽しゃらく豊国とよくには江戸盛時の演劇を眼前に髣髴ほうふつたらしめ、歌麿うたまろ栄之えいしは不夜城の歓楽に人をいざなひ、北斎ほくさい広重ひろしげは閑雅なる市中しちゅうの風景に遊ばしむ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は今日初めて明るい紫紺しこん金釦きんぼたん上衣うわぎを引っかけて見た。藍鼠あいねずみの大柄のズボンの、このゴルフの服はいささかはで過ぎて市中しちゅうは歩かれなかった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
東京の市中しちゅうへ使いにいって、あのものすごい雑沓ざっとうに出あうと、かれは自分をどうしていいかわからないのに、この親切なおやじさんとわかれるようになるのがいやだったのです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
試験をすましたら、動物園も見よう、博物館にもはいろう、ひととおり市中しちゅうの見物もしよう、お茶の水の寄宿舎に小畑や郁治をも訪ねよう、こういろいろ心の中に計画してやって来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ですから、いまにも戦争せんそうがはじまりそうで、江戸えど市中しちゅうはざわついていました。
あの酔漢よっぱらい丸山本妙寺まるやまほんみょうじ中屋敷に住む人で、元は小出こいで様の御家来であったが、身持みもちが悪く、酒色しゅしょくふけり、折々おり/\抜刀すっぱぬきなどして人をおどかし乱暴を働いて市中しちゅう横行おうぎょうし、或時あるときは料理屋へあがり込み
のみならず、そこにはおおきな建物たてものならんで、けむりそらにみなぎっているばかりでなく、鉄工場てつこうじょうからはひびきがこってきて、電線でんせんはくもののようにられ、電車でんしゃ市中しちゅう縦横じゅうおうはしっていました。
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
春章しゅんしょう写楽しゃらく豊国とよくには江戸盛時の演劇を眼前に髣髴ほうふつたらしめ、歌麿うたまろ栄之えいし不夜城ふやじょうの歓楽に人をいざなひ、北斎広重は閑雅なる市中しちゅうの風景に遊ばしむ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
繁華な市中しちゅうからも日本晴にほんばれの青空遠く富士山を望み得たという昔の眺望の幾分を保存させたであろうとにもつかぬ事を考え出す。
前回記する処の崖といささか重複ちょうふくする嫌いがあるが、市中しちゅうの坂について少しく述べたい。坂は即ち平地へいちに生じた波瀾である。
柳は桜と共に春来ればこきまぜて都の錦を織成おりなすもの故、市中しちゅうの樹木を愛するもの決してこれを閑却かんきゃくする訳にはくまい。
平素市中しちゅうの百貨店や停車場ていしゃじょうなどで、疲れもせず我先きにと先を争っている喧騒な優越人種に逢わぬことである。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしこの幸福は世間一般が不景気になるに従って追々おいおいに破壊せられるようになった。再び年号が改ったその翌年の春、市中しちゅうの銀行がほとんど一軒残らず戸を閉めたことがあった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道路は市中しちゅうの昭和道路などよりも一層ひろいように思われ、両側には歩道が設けられていたが、ところどころ会社らしいセメントづくリの建物と亜鉛板トタンいたで囲った小工場が散在しているばかりで
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)