尾州びしゅう)” の例文
かれはむかしから“猿ぎらい”だと揚言ようげんしていた。猿が、信長に見出されかけていた当時から、かれは尾州びしゅう春日井郡かすがいごおりの一城主だった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の西応房は尾州びしゅう中島郡なかじまごおりいちみやの生れであったが、猟が非常に好きで、そのために飛騨ひだの国へ往って猟師を渡世にしていた。
女仙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だが一時は近在の民家に普く用いられ、なかんずく尾州びしゅう三州さんしゅう勢州せいしゅう、江州または京等に広い販路を得たようである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして徳川慶喜はすでに幾度か尾州びしゅうの御隠居や越前の松平春嶽しゅんがくを通して謝罪と和解の意をいたしたということや
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父は尾州びしゅう家の藩士であったが維新後塩物問屋をいとなんでいるうち彼女の十一歳のおりに病死してしまった。その後は母の手一つに養育され常磐津ときわずなどをならっていた。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
江戸に米一揆いっきが起き、奥州米を運漕うんそうしてお救い米を出す騒ぎになったが、政岑は、これも家督して間もない尾州びしゅう名古屋の城主、従三位権中納言じゅさんみごんちゅうなごん宗春と連れだって吉原へ出かけ
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
めですから、おウ、尾州びしゅう因州いんしゅう土州としゅう信州しんしゅう早籠はや二梃だ。いってやんねえ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小牧山こまきやま合戦の際には秀吉も入城したことがあったというのだが、天下が家康に帰してからは、尾州びしゅう侯の家老成瀬隼人なるせはやとほうぜられ、以来明治維新まで連綿として同家九代の居城として光った。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
柿の木金助は大凧に乗って名古屋城の天主閣に登って、金のしゃちうろこをはがしたと伝えられている。かれは享保きょうほう年間に尾州びしゅう領内をあらし廻った大賊で、その事蹟は諸種の記録にも散見している。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余は元治元年二月二十八日をもって江戸市ヶ谷いちがや合羽坂かっぱざか尾州びしゅう分邸に生れたり。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
いよ/\尾州びしゅう清洲きよすのおさとかたへおかえりあそばすことになりました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
従来尾州びしゅう領であったこの地方では、すべてにわたり同藩保護の下に発達して来たようなもので、各村とも榑木御切替くれきおきりかえととなえて、年々の補助金を同藩より受け、なお
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思い出しました。尾州びしゅう蜂須賀はちすか村の生れで、叔父の小六が堺鍛冶さかいかじに作らせたとかいう新しい鉄砲を持って御領地へ逃げこんで来、それをお館へ献じた功に依って、数年、お扶持ふち
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾州びしゅう侯の山荘以来の遺物かと思われる古木が、なんの風情も無しに大きい枯れ枝を突き出しているのと、陸軍科学研究所の四角張った赤煉瓦あかれんがの建築と、東洋製菓会社の工場に聳えている大煙突と
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
尾州びしゅうって、織田殿に身を寄せてもよいが」
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この父に言わせると、中津川あたりと馬籠とでは、同じ尾州びしゅう領でも土地の事情が違う。木曾谷きそだに三十三か村には福島の役人の目が絶えず光っていることを忘れてはならない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蛮船ばんせんから買い入れようときそっているが——この尾州びしゅうあたりはまだ地の利を得ておるものの——甲州こうしゅう越後えちご奥州おうしゅうあたりの山武士やまざむらいのうちには、鉄砲とはどんな物か、まだ見たこともない者が多かろう。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この春、尾州びしゅうの殿様が江戸へ御出府だげな。お前さまはまだ何も御存じなしか。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
尾州びしゅう星崎城主、岡田長門守。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで彼は水戸みとの御隠居や、尾州びしゅうの徳川慶勝よしかつや、松平春嶽しゅんがく鍋島閑叟なべしまかんそう、山内容堂ようどうの諸公に説いて、協力して事に当たることを求めた。岩瀬肥後の名が高くなったのもそのころからだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信雄卿のぶおきょう 尾州びしゅう一円
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉左衛門らは二人ふたりの主人をいただいていることになるので、名古屋城の藩主を尾州びしゅうの殿と呼び、その配下にある山村氏を福島の旦那だんな様と呼んで、「殿様」と「旦那様」で区別していた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)