小婢こおんな)” の例文
路次の奥から美しい女轎おんなかごがぞろと出て来た。お供は小婢こおんな迎児げいじと、しゅうとはんじいさんとで、二人とも清々すがすがした外出姿よそゆきすがた、常ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ザビーネの仕度したくがととのわないうちに、小婢こおんなが帰ってしまうこともたびたびだった。すると客は、店の入口のベルを鳴らした。
わずかに残された探索として希望をつなぎうるものは、事件の前後に受け持ちとして出ていった小婢こおんながあるばかり——。
小婢こおんな一人留守して居る処に来ては、茶をくれ、飯をくれ、果てはお前の着て居る物を脱いでくれ、と強請ねだって、婢は一ちゞみになったことがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
久助の下に、ふたりの小婢こおんなが出て来て、酒と料理をはこんだ。そのおんなたちも、おせい様がやかましいので、立ち居ふるまいもしとやかであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
章子は、獅々舞いが子供を嚇すように胸を拳でたたきたたき笑いこけている小婢こおんなの方へじりじりよって行った。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
老婆一人ひとり小婢こおんなと同宿人一人との気兼ねなさと、室が日光ひあたりがよくて気に入ったのと、食物たべもののまずい代りに比較的安価なのと、引越の面倒くさいこととのために
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
背のすらりとした綺麗な女が青い上衣を著た小婢こおんなに小さな包みを持たせて雨に濡れて立っていた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
葉子の叔母は葉子から二三げん離れた所に、蜘蛛くものような白痴の子を小婢こおんなに背負わして、自分は葉子から預かった手鞄てかばん袱紗ふくさ包みとを取り落とさんばかりにぶら下げたまま
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あんな見すぼらしい着物をつけながら、平気で大きい貨幣をポケットから引き出し、木靴きぐつをはいた小婢こおんなに大きな人形をおごってやるその男は、確かに素敵なまた恐ろしいじいさんに違いなかった。
小婢こおんなの利休の音も、すぐ表ての四条通ではこんなふうには響かなかった。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
伊東の声にびっくりしたように、勝手口から飛び出してきた小婢こおんな
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
隠居は、ってきた小婢こおんなから包みを受け取ると、ゆっくりかかって一つ一つ取り出した。地方からの珍らしい到来物とうらいもので、自分の分を今まで取っておいて、二人を喜ばせようと持ってきたのだった。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「娘さんも小婢こおんなも遁がした。下女おさんどんは一所に手伝った。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この小婢こおんなの手びきで、頭巾を眉深まぶかにかぶった色坊主が、不敵にも、ほとんど一晩おきに、人妻の秘室へ忍び通うという不義の甘味をぬすんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小婢こおんなが茶を運んで来た。菓子が無いので、有り合せのなしき、数が無いので小さく切って、小楊枝こようじえて出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お高が、小婢こおんなに送られて、おせい様の玄関を出ようとしていると、入れ違いに、おせい様と同じ年配の、やはり裕福な商家のおかみらしい、いきなつくりの女が、おせい様を訪れて来た。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女は帰って、すぐ彼は「ビール」と小婢こおんなに言いつけた。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
このさまを見て、小婢こおんな迎児げいじは、縄目のまま灌木の中を跳び出して逃げかけた。一せん、楊雄は躍ッて迎児を斬り伏せ、返すやいな、その血刀で
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしておの/\糸経をかぶり、男が二人のぬいだ日和下駄を風呂敷包ふろしきづつみにして腰につけ、小婢こおんなにみやげの折詰二箇ふたつ半巾はんかちに包んで片手にぶら下げて、尻高々とからげれば
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お高は、鳥居丹波守とりいたんばのかみの上屋敷と上野こうずけ御家来衆のお長屋のあいだを抜けて、拝領町屋の横町へ出て、雑賀屋のおせい様ときくと、すぐにわかった。細い千本格子こうしをあけると、十六、七の小婢こおんなが出てきた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)