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宗助
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そうすけ
此日も
宗助は
兎も
角もと
思つて
電車へ
乘つた。
所が
日曜の
好天氣にも
拘らず、
平常よりは
乘客が
少ないので
例になく
乘心地が
好かつた。
梯子の
樣な
細長い
枠へ
紙を
張つたり、ペンキ
塗の一
枚板へ
模樣畫見た
樣な
色彩を
施こしたりしてある。
宗助はそれを
一々讀んだ。
小路の
泥濘は雨上りと違って
一日や
二日では容易に乾かなかった。外から靴を
汚して帰って来る
宗助が、
御米の顔を見るたびに
佐伯の叔母も
安之助もその後とんと
宗助の
宅へは見えなかった。宗助は
固より
麹町へ行く余暇を
有たなかった。またそれだけの興味もなかった。
本屋の
前を
通ると、
屹度中へ
這入つて
見たくなつたり、
中へ
這入ると
必ず
何か
欲しくなつたりするのは、
宗助から
云ふと、
既に
一昔し
前の
生活である。
「こうなると少し
遣場に困るのね」と訴えるように
宗助に告げた。実際ここを取り上げられては、御米の
御化粧をする場所が無くなってしまうのである。