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大牛
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おほうし
……つひ
向ふを、
何うです、……
大牛が
一頭、
此方へ
尾を
向けてのそりと
行く。
其の
図体は
山を
圧して
此の
野原にも
幅つたいほど、
朧の
中に
影が
偉い。
最う
仰いでも
覗いても、
大牛の
形は
目に
留まらなく
成つたゝめに、あとは
夢中で、
打附れば
退り、
床あれば
踏み、
階子あれば
上る、
其の
何階目であつたか
分らぬ。
が、
大牛が
居る、
妻の
囚はれた
魔の
城である……よし
其が
天狗でも、
気を
散らす
処でない。
爰に
一刀を
下ろすは、
彼を
救ふ
一歩である、と
爽かに
木削を
散らして
一思ひに
刻果てた。