地響じひびき)” の例文
地下室の中でも、彼は、遠方から地響じひびきの伝わってくる爆撃も夢うつつに、かたわらからうらやましがられるほど、ぐうぐうといびきをかいて睡った。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
トタンにがらがらと腕車くるまが一台、目の前へあらわれて、人通ひとどおりの中をいて通る時、地響じひびきがして土間ぐるみ五助のたいはぶるぶると胴震どうぶるい
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
圧えつける様な、うそ寒い空気、遙か頭上に打ち寄せる浪の地響じひびき、ガラス越しの蒼暗あおぐらい世界に蠢く生物共、それは全くこの世のほかの景色でありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
されば貴人の馬車富豪の自動車の地響じひびき午睡ごすいの夢を驚かさるる恐れなく、夏のゆうべ格子戸こうしどの外に裸体で凉む自由があり、冬の置炬燵おきごたつに隣家の三味線を聞く面白さがある。
ところが真夏の八月に入った或る日の事、鯛網引たいあみひきの留守で、村中が午睡ひるねをしている正午下ひるさがり時分に、ケタタマシイ自動車の音が二三台、地響じひびきを打たして別荘の方へ走って行った。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ふみ 火の帯、火の波、火の流れ、姿のみえない所から軍歌が地響じひびきのように湧き上ってきて……ほら、又聞える。身体全体を揺り動かされるような気がするわ。万歳、万歳、万歳……。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
その笑いはいたずらにげたげた言う地響じひびきに似た空虚な音だけで、伊豆はその一々の響毎に鳩尾みぞおちを圧しつけられる痛みを覚えたが、しかしなおあたかすでに復讐し終えたような愉悦に陶酔したのである。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
地響じひびきのわれにさきだつ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
時々、大きな岩石でもほうり出したような物音が、地響じひびきとともに聞えて来、その度毎に、地下道の壁がビリビリと鳴りわたった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と言うと、猛然として、ずんと立って、堪えられぬ……で、地響じひびきで、琴の師匠がずかずかと行って、物干をのぞいたっけ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百貨店閉館の間際に、その側面の道路を歩いていた人々は、空から大きな黄色いものが、爆弾のように落下して来て、目の前の鋪道に恐ろしい地響じひびきを立てて叩きつけられるのを見た。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし塔の前で、馬車の上から大きな木箱が、がらがらずどんと大きな音をたてて地面の上に転げおちたその地響じひびきに、ふと目をさましました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わしたまらず真逆まっさかさまに滝の中へ飛込んで、女滝をしかと抱いたとまで思った。気がつくと男滝の方はどうどうと地響じひびき打たせて。山彦やまびこを呼んでとどろいて流れている。ああその力をもってなぜ救わぬ、ままよ!
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天地もとどろく大音響と、恐ろしい地響じひびきが、相次いで起った。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは例の工事場で働いていたとき、その中ではないが、どこかその附近でもって、しきりに杙打くいうち作業をやっているらしい地響じひびきを聞いたことであった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただどこやらから、地下戦車のエンジンの響きが聞えるのと、立っている人々の足に、じんじんじんと、異様いよう地響じひびきが伝わるのと、たったそれだけであった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして中心を失って、スーッと横にかたむくと、地響じひびきをたてて地上にたおれ、ポーンと粉々にこわれてしまった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、どうんという地響じひびきとともに、にわかに床が、ぐっと上にもちあがると、たちまち部屋は、嵐の中に漂う小舟のように、ゆらゆらと、大ゆれにゆれはじめたのであった。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)