困惑こんわく)” の例文
美貌に眼をつけた上級生が無気味なこびで近寄ってくると、かえってその愛情にむくいる方法を知らぬ奇妙な困惑こんわくおちいった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
さすが、甲州流こうしゅうりゅう軍学家ぐんがっか智謀ちぼうのたけた民部みんぶといえども、この急迫きゅうはく処置しょちには、ほとんど困惑こんわくしたらしく、憂悶ゆうもんの色がそのおもてをくらくしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マスノや小ツルさえ、困惑こんわくの色をかべていた。彼女たちにしても、泣きだしたかったのだ。しかし泣けなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
たえす塾生たちを困惑こんわくさせた一事があった、それは「蹶起けっき部隊」とか、「行動部隊」とか、あるいは「占拠せんきょ部隊」とかいう言葉が使用され、三日目になって
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
困惑こんわくの目の色がだんだんと憤怒ふんぬの光をびてきた。だが、今夜はそんなことでおどろくようなあたしじゃない。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は最初のいくつかの野薔薇のしげみを一種の困惑こんわくの中にうっかりと見過してしまったことに気がついた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
孔悝の名において新衛侯擁立ようりつの宣言があるからとて急に呼び集められた群臣である。皆それぞれに驚愕きょうがく困惑こんわくとの表情をかべ、向背こうはいに迷うもののごとく見える。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
新吉は八五郎の顏に擴がる困惑こんわくを享樂するやうに、階下から二階を案内します。
それは万一ちがっていたら、かえって人さわがせになるし、ことに病人を出して家中が混乱しているところへ、新しい困惑こんわくを加えるのはどうかと思ったのである。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、当然疑われたが、彼の眼を見た政職の眼には、その解答ともいえる困惑こんわくと自己苛責かしゃくの容子が明らかに現われていたことは官兵衛にとって見遁みのがし得ない示唆しさだった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私にはまだよくわからずにいる相手の気持もいくらか明瞭はっきりしはしないかと思って、かえってそういう私自身の不幸をあてにして仕事をしに来た私は、ために困惑こんわくしたほどであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
米屋の主人の聰明な顏が、ひどく困惑こんわくして居ります。
そのうちに、彼の表情に、困惑こんわくの色が浮んできた。小首こくびをかしげると、うめくようなこえで
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
諮問しもんをうけた面々もまた、のきに火がついたような困惑こんわくを顔色に燃やしながら
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
困惑こんわくしきっている間に、時間がたってしまった。ふと気がついてみると、列車は、動いていた。しかも最終の車両が、もうホームの真中あたりへ来て、相当のスピードを出していた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、この程度の問題に当っても、困惑こんわくを面にあらわして衆にはかるのであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、名状めいじょうすべからざる困惑こんわくを感じた。しかしついに、彼は女の躯から手を放そうとはしなかった。自分の胸の中で、嗚咽おえつするその女が、ただもういじらしくて仕方がなかったし、それに
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家康からの条件に、おそらく一益は、困惑こんわくしたろう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前の二枚の標章マークわせてこれで三枚になったのだった。警部のおもてには困惑こんわくの色がアリアリと現れた。グッとその小布こぬののうちに握りしめると、警部は、車外に出てザクリと砂利じゃりを踏んだ。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
立ちよどむしかないような困惑こんわくに陥ちた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)