右近うこん)” の例文
それをのぞいてわらわが後ろの建物のほうへ来て、『右近うこんさん、早くのぞいてごらんなさい、中将さんが通りをいらっしゃいます』
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ゆうゆうと月にうそぶいてから(右近うこんの馬場が恋しくなった。あすこへ行け)と、いうと、男は(そんなには、参れません。もう、御かんべんを)
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
右近うこんの馬場を右手めてに見て、何れ昔は花園はなぞのの里、霜枯しもがれし野草のぐさを心ある身に踏みしだきて、太秦うづまさわたり辿たどり行けば、峰岡寺みねをかでらの五輪の塔、ゆふべの空に形のみ見ゆ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
内裏雛だいりびな、五人ばやし、左近さこんの桜、右近うこんたちばな雪洞ぼんぼり屏風びやうぶ蒔絵まきゑの道具、——もう一度この土蔵の中にさう云ふ物を飾つて見たい、——と申すのが心願でございました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さればわが国史にも田道将軍の妻、形名君の妻と、夫の名のみ記して妻の名を欠き、中世、清少納言、相模さがみ右近うこんと父や夫や自分の官位で通って実名知れぬ才媛多い。
はて、見たような所と思って見まわすと、紫宸殿ししんでんの広庭にちがいない。けれど「右近うこんノ橘」「左近ノ桜」は見あたらず、そこには一本の大きな常磐木ときわぎだけがそびえていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが左近さこんの桜、右近うこんたちばなと、見て行くに従って、そこに、樟脳の匂いと一緒に、何とも古めかしく、物懐しい気持が漂って、昔物のきめのこまやかな人形の肌が、いつとなく
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かの京都の紫宸殿ししんでん前の右近うこんたちばな畢竟ひっきょうこの類にほかならない。そしてこんな下等な一小ミカンが前記歴史上のタチバナと同じものであるとする所説は、まったく噴飯ふんぱんものである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
神田帯屋小路の喧嘩渡世、茨右近方へ帰り着いた喬之助、べつだんつかれたようすもない。右近うこんと知らずのおげんは、この夜ふけまでどこへ行っているのか、家には誰もいなかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
緋羅紗ひらしゃを掛けた床の雛段には、浅草の観音堂のような紫宸殿ししいでんいらかが聳え、内裏様だいりさまや五にんばやしや官女が殿中に列んで、左近さこんの桜右近うこんの橘の下には、三人上戸じょうご仕丁じちょうが酒をあたゝめて居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼もまじってひきあげたが、しかし六波羅の探題へも帰らず、自分の館へも帰って行かず、甲胄かっちゅうぬぎすて庶人となり、右近うこん蔵人くらんどの官位も捨て、あの愛していた妻も捨て、武士も捨て名も家も
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「親分は、染井右近うこんといふ人を御存じでせうね」
源氏はもうだれの思わくもはばかる気がなくなって、右近うこんに随身を呼ばせて、車を庭へ入れることを命じた。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
茶臼山より庚申堂こうしんどうに備えたる真田勢を一気に斬り崩し、左衛門尉幸村をば西尾仁左衛門にざえもん討ち取り、御宿越前みしゅくえちぜんをば野本右近うこん討ち取り、逃ぐる城兵の後を慕うて、仙波口より黒門へ押入り旗を立て
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
季縄すえなわの少将の女子の右近うこんと云う人とも、此の女がまだ宮中に奉公をしていた頃に云い交したことがあったが、後に宮仕えを止めて里へ帰ってからは、ふっつり訪ねても来ないようになったので
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
右近うこんはおそるおそる、菊亭家きくていけの使いのよしを伊那丸にとりついだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浮舟の秘密に関与していた右近うこんと侍従だけには最近の姫君の悲しみよう、煩悶はんもんのしようの並み並みでなかったことから、川へ身を投げたという想像がつくのであった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、ふたたび右近うこんかいして、そのむねをいいやった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中へはいって見ると、灯をあちら向きに置いて、遺骸との間に立てた屏風びょうぶのこちらに右近うこんは横になっていた。どんなにわびしい気のすることだろうと源氏は同情して見た。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
自分がまだ生きていると知りえようはずがない、気の合った人もないままに、主従とはいえ隔てのない友情を持ち合ったあの右近うこんのこともおりおりは思い出される浮舟であった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これは右近うこんじょうで宰相中将の手もとに使っている男であった。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)