古沼ふるぬま)” の例文
惜しい事に向うは月中げっちゅう嫦娥じょうがを驚ろかし、君は古沼ふるぬま怪狸かいりにおどろかされたので、きわどいところで滑稽こっけいと崇高の大差を来たした。さぞ遺憾いかんだろう
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葡萄色ぶだういろあゐがかつて、づる/\とつるつて、はす肖如そつくりで、古沼ふるぬまけもしさうなおほき蓴菜じゆんさいかたちである。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
薄い月の光で、海のおもてがぼんやりとけむり、古沼ふるぬまのようにはるばるとひろがっている。空には白い巻雲まきぐもがひとつ浮いていて、眼に見えぬくらいゆっくりと西のほうへ流れてゆく。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
素戔嗚は何となく、非難でもされたような心もちになって、思わず眼を薄日うすびがさした古沼ふるぬまの上へただよわせた。古沼の水は底深そうに、まわりにぐんだ春の木々をひっそりとほの明るく映していた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けてそこんですこ白味しろみびて、とろ/\としかきしとすれ/″\に滿々まん/\たゝへた古沼ふるぬまですもの。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かたともみづうみともえた……むし寂然せきぜんとしてしづんだいろは、おほいなる古沼ふるぬまか、千年ちとせ百年もゝとせものいはぬしづかなふちかとおもはれた圓山川まるやまがは川裾かはすそには——河童かつぱか、かはうそは?……などとかうものなら、はてね
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)