厄落やくおと)” の例文
厄落やくおとしということがある。夢もさっぱり落してしまったらばと、おりおり思う。それでもかれは夢から離れることもできず、夢もまたかれを離さない。
下女の中にて三郎兵衞を少しうたがふ者ありしが夫は證據なき事とて是非なく今年ことし厄落やくおとしと斷念あきらめ帳面を〆切しめきりしが是を不幸けちの始として只一人の娘にむこえらあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……妹背山いもせやま言立いひたてなんぞ、芝居しばゐのはきらひだから、あをものか、さかな見立みたてで西にしうみへさらり、などをくと、またさつ/\とく。おんやくはらひましよな、厄落やくおとし。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今日の厄落やくおとしを終ろうと、すらりと立って、片手には丸形の行燈あんどんを携え、秋草の襖へ手をかけると、なんとなく心がおののく、その気持を取直して、これもスラリと襖をひらき
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
貧乏人の怨みのかたまり見たいな金だ、盜られたら飛んだ厄落やくおとしだらうと思ふと大違ひ。
道ゆく人もふり返ったが、清盛は、厄落やくおとしにでも行くような気もちなのだ。
厄落やくおとし祝賀会の宿酔ふつかよいでござったろう」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
厄落やくおとしでもしたような心地がした。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何物かつまづく辻や厄落やくおと
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
はなしをするうちに、さく/\とゆきけるおとがして、おんやくはらひましよな、厄落やくおとし。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
疑ひし者も御座りしかど證據しようこなき事故厄落やくおとしと心得相濟し候夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひくふして頼けるに三郎兵衞は碌々ろく/\耳にも入ず合力は一向なり申さず勿論もちろんむかしは借用致したれども夫は殘らず返濟したりすれば何も申分有べからずとの返答に四郎右衞門成程なるほど其金は受取たれども仕舞しまひの百兩は大晦日おほみそかの事にてちやうへは付ながら金は見え申さず不思議の事と思へども最早もはやそれむかしの事我等が厄落やくおとしと存じ思切てすましたり夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)