判官ほうがん)” の例文
途中で、都らしい女に逢ったら、私はもう一度車を飛下とびおりて、手もせなもかしたであろう。——判官ほうがんにあこがるる、しずかの霊を、幻に感じた。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまりこの地方の守護大名、佐々木佐渡ノ判官ほうがん高氏殿こそがその人なので……と、土岐左近は、一応の紹介の辞でもすましたような、したり顔で
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
判官ほうがんびいきの人たちはその反動から競争者の富子を憎んだ。雛吉が俄かに天性の美音を失ったのは、富子が水銀剤を飲ませたのであると言い触らすものもあった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あくる晩は四段目、五段目、六段目と演ってみましたが、しめてかかると判官ほうがん様や勘平の切腹では田舎の人たちがみんなポロポロ涙をこぼして聴いてくれるんです。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「ついに泣かぬ弁慶も一期いちごの涙ぞ殊勝しゅしょうなる」から「判官ほうがん御手おんてを取り給い」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
異人答えて曰く、もと修するの法なし、かつて九郎判官ほうがんに随従して高館にいるとき、六月衣川ころもがわつりして達谷たっこくに入る。一老人あり招きて食をきょうす。肉ありその色はしゅのごとく味美なり、仁羮じんこうと名づく。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、いうとともに、胆略も武勇もない、判官ほうがんならぬ足弱の下強力したごうりきの、ただその金剛杖こんごうづえの一棒をくらったごとく、ぐたりとなって、畳にのめった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それはいかんな。お大事になされよ。この道誉も、先帝のお身柄を、隠岐おき判官ほうがんに渡してさえしまえば、身軽な旅。——帰途にでもまた、お訪ねください」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すらすらと歩を移し、露を払った篠懸すずかけや、兜巾ときんよそおいは、弁慶よりも、判官ほうがんに、むしろ新中納言が山伏に出立いでたった凄味すごみがあって、且つ色白に美しい。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは隠岐おき判官ほうがん佐々木清高なのだった。何事か、幕府の召しによって、遠い島から急いで来たのらしい。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめよりして、判官ほうがん殿の北国の浦づたいの探訪のたびに、色の変るまでだった、夏吉の心がうなずかれた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
判官ほうがん越前守と、心をおおやけなるものに、きびしく固めても、官衣の下は、かれも人間の皮膚、血肉をもつものである以上、あれから二十年後にちかい今日とて、燈下に、これを見て
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六波羅の大将は、かの佐々木道誉どうよの一族で、これも近江源氏の六角ろっかく判官ほうがん時信ときのぶだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
判官ほうがんどのが詠じたと言伝えて、(義経が身のさび刀とぎに来て荒城のさやに入るぞおかしき。)北の方が、竜王の供料にと、くれないはかまを沈めた、白山がだけの風に、すずの岬へただよった時
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥では、南の左将監北条時益、北の越後守北条仲時、両探題もそろッて、急遽、鎌倉から派遣されてきた二階堂にかいどう下野しもつけ判官ほうがん、長井遠江守らの面々と、今朝から密議中とのことだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りそうな、串戯じょうだんものの好々爺こうこうやの風がある。が、歯が抜けたらしく、ゆたかな肉の頬のあたりにげっそりとやつれの見えるのが、判官ほうがん生命いのちを捧げた、苦労のほどがしのばれて、何となく涙ぐまるる。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼくなども、義経は好きだが、そして義経の生涯や性格に多分な詩と劇的な興味は覚えるが、義経讃美もが過ぎて、いわゆる判官ほうがんびいきの引き仆しが多く、その一例がここにも見られる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『久しく、遠ざけられていた、六条の判官ほうがん源ノ為義が、ふたたび、院に戻るであろうとか。内大臣頼長から、上皇へ、おとりなしがあったとか。そんなうわさも、一因をなしておるようです』
いちばん下の三等官「尉」のことを、べつに「判官ほうがん」とも、呼ぶのである。
判官ほうがん殿には、病中と仰せあって、なかなかお会い下さいません。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
判官ほうがんの部下たちは、土足をあげて法師の体をまりのように蹴った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただいま甲ノ尾から、隠岐ノ判官ほうがん殿がこれに見えますぞ」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おうっ、そこには結城ゆうき判官ほうがん親光もおったな」
「九ろう判官ほうがんが、これに潜んでおろう」
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿修羅あしゅら判官ほうがん
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)