二張ふたはり)” の例文
まもなく二張ふたはり提燈ちょうちんが門のうちにはいった。三男市太夫いちだゆう、四男五太夫ごだゆうの二人がほとんど同時に玄関に来て、雨具を脱いで座敷に通った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
道路の入り口にはすでに盛り砂が用意され、竹籠たけかごに厚紙を張った消防用の水桶みずおけは本陣の門前にえ置かれ、玄関のところには二張ふたはりの幕も張り回された。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
祭りが近くなると、町々の「宿」の表には、四尺四方ぐらゐな四角の枠の中に、一本隔てを入れたのに、大きな御神燈を二張ふたはり括り附けて、軒に懸けてゐた。
三郷巷談 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
それに照らされて桃色の、二張ふたはりの陣幕が見えている。その方角から川音がする。そいつをぬってカチカチと、武器や物の具の音がする。それを越して絶壁がある。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
手桶片手に、しきみげて、本堂をグルリとまわって、うしろの墓地へ来て見ると、新仏しんぼとけが有ったと見えて、地尻じしりに高い杉の木のしたに、白張しらはりの提灯が二張ふたはりハタハタと風にゆらいでいる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
箱提灯を二張ふたはりつらねて、先へ立つと、その後ろに、ことし、はじめて元服したらしい、水々しい若衆が一人と、それにつき添うて、前髪立ちの振袖の美少年が、二人ともに盛装して
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が屋敷町の小路を、針はいらんか、京針はいらんか——とあきないして歩いていると、向うから、羽壺うつぼ革袋かわぶくろを脇に掛けて、二張ふたはり三張みはりの古弓を肩にになった男が、日吉よりはよくとおる声で
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くわんわづかひとはうむられた。それでも白提灯しろぢやうちん二張ふたはりかざされた。だけ格子かうしんでいゝ加減かげんおほきさにるとぐるりと四はうを一つにまとめてくゝつた花籠はなかごも二つかざされた。れも青竹あをだけけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)