不覚ふかく)” の例文
旧字:不覺
だがそれをしなかった。不覚ふかくのいたりだ。もっとも、そんなことをすれば、首領は一撃のもとに自分を毒針どくばりでさし殺したかもしれない。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが、竹童の信念しんねんはくつがえされて、ゆみをとっては神技かみわざといわれている蔦之助が、どうだろう、この不覚ふかく? このみにくいやぶかた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往って見ると此は不覚ふかくがしまって居る。駅夫えきふに聞くと、睡むそうな声して、四時半まではあけぬと云う。まだ二時前である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こう答えた時私は、私の今までの全経歴、全経験を、私の胸の中にぱっとひろげられたのを感じた。不覚ふかくにも私は、かすかな涙を私の眼に宿やどした。
それを知らず、のこのこと近づくまで出てきたのは、じつに不覚ふかくでした。もうかくれる場所も逃げる道もありません。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
五月近くなってから、「ことしの花は、どうだったけなあ」一人言い二人言い、言い出す人が、ちょいちょいあって、不覚ふかく人は、私ひとりでもなかったことを知った。
花幾年 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
とたんに一歩さがった彼は、不覚ふかくにも敷居ぎわの死体につまずいて仰向あおむけに倒れた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おもわずらず、れとわがそでらした不覚ふかくなみだに、おせんは「はッ」としてくびげたが、どうやら勝手許かってもとははみみへは這入はいらなかったものか、まだらぬ風邪かぜせきが二つ三つ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
天明趣味の句はよくわかって居るが明治趣味の句はまだわかって居らん処がある。それに気が附かないでひとり悟ったつもりになって後輩を軽蔑して居ると思わぬ不覚ふかくを取る事がないとも限らぬ。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そのうち、不覚ふかくにも、くされていたひさしのはしった刹那せつなであります。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「於市、あしたは殿さまのお供だぞ。助作、権平のふたりもお供に加われ。朝はお早いかも知れぬから、そのつもりで不覚ふかくすな」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不覚ふかくてい。面目もございませぬ。幾十日ぶりかで、守時の上にも、青空があったようなと、つい心をとりみだしまして」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのための熟睡も、今朝の不覚ふかくをなした原因といえよう。彼の職分としても、尠なくとも明智勢が洛内へ足を踏み入れると同時にこの変を知るべきであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな者に、秘事の端でも洩らしたのは、一不覚ふかくと、道誉も拙者もほぞを噛み、せめて彼奴に二年の禁足でも食らわせておけばと、後より手を打ったような仕儀でおざった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オオ、不覚ふかく不覚、あまり話に身がいって、時刻じこくのたつのを忘れていたとみえる」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と竹童は例のぼう切れを片手に持って、くる矢くる矢をパラパラと打ちはらっていたが、それに気をとられていたのが不覚ふかく、たいせつな果心居士かしんこじの手紙を、うッかり懐中ふところから取りおとしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不覚ふかくにも、つい、こぼれてしまった涙のあとを、手で拭き消した。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)