不甲斐ふがい)” の例文
あるい不甲斐ふがいない意久地が無いと思いはしなかッたか……仮令よしお勢は何とも思わぬにしろ、文三はお勢の手前面目ない、はずかしい……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
兄の不甲斐ふがいない性質に対する日頃の不満と、この弟をこごつた瑩玉えいぎょくのやうに美しくしてゐる生れ付き表現のみちを知らない情熱と
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
と、エディ・ホテルの前で、不発論を守って、逃げ行く不甲斐ふがいなき民衆を呼び戻しているのは例の咄々とつとつ先生であった。
「いや、断じて酒なんかの問題じゃないですよ、近ごろの味方の連中の不甲斐ふがいなさにあいそがつきてしまったんです」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
其方も最早十八歳ではないか、親の敵の山浦丈太郎が、目と鼻の間に居るのに、何んという不甲斐ふがいのないことだ。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
明智は訳の分らぬことを云って、不甲斐ふがいなくも渋面じゅうめんを作った。口惜くやしさに今にも泣き出そうとする子供の表情だ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不甲斐ふがいない人間と笑ってください。どうせ今まで何一つ立派なこともしてこなかった体、死んでおびしたくとも、やはり死ぬまで一眼お眼に掛りたく……。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
十八に家出いえでをしたまま、いまだに行方ゆくえれないせがれきち不甲斐ふがいなさは、おもいだす度毎たびごとにおきしなみだたねではあったが、まれたくさにも花咲はなさくたとえの文字通もじどお
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ただあの不甲斐ふがいない息子が一時も早く迷いの夢から覚めてくれれば、と思っているのだ。あの崇厳な不尽ふじの姿をみれば、少しは気持が落着いてくれるだろう。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
お千代はどういう心持でこの年月自分のような不甲斐ふがいない男と一緒に暮して来たのであろう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
親の仇敵かたきを目の前に置いて、手さえつけられぬ不甲斐ふがいなさ、草葉の蔭でご両親様がさぞ口惜しがっておいでであろう……それに、私のお兄様、この世に生きておられるやら
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むせぶように、力ない人間の不甲斐ふがいなさを天に訴えているとしか見えません。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
何か眼の中が熱くなって来て、墓場の上にあか粒々つぶつぶがパッと散って行くほど、僕は僕の不甲斐ふがいなさを彼女に見せつけられたようだ。で、僕はたまらなくなって素足のまま墓場の道へ走って出た。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
賢君忠臣の事蹟じせきむなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさをなげいて泣いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
みずからおのれを統御することにおける大多数者の無能力、金銭に左右される無節操、不甲斐ふがいない無気力、あらゆる優秀にたいする卑しい怯懦きょうだな反発、圧倒的な卑劣などは、反抗を惹起じゃっきせしめていた。
かの女はそう云って、相手に対する影響を見ているうちにかすかな怒りさえこみ上げて来た。もしこの上、この母親に不甲斐ふがいない様子を見続けるなら
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
文三も暫らくは鼻をもつぶしていたれ、ついには余りのけぶさに堪え兼て噎返むせかえる胸を押鎮おししずめかねた事も有ッたが、イヤイヤこれも自分が不甲斐ふがいないからだと、思い返してジット辛抱。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だが熊は、不甲斐ふがいなくも、あくまで無抵抗であった。なんて弱虫な猛獣だろう。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だから、やれ、西の空に「ふそう雲」が現れたと云ってはうろたえ、「ほこ星」が光り始めたと云っては、恐ろしがる。それでは、この当世に生きる者として、誠に不甲斐ふがいのない話ではないか。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「どうもしないが……実に……実に嬉れしい……母親さんの仰しゃる通り、二十三にも成ッてお袋一人さえ過しかねるそんな不甲斐ふがいない私をかばって母親さんと議論をなすったと、実に……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼女は隠し男との遊戯の暇には、その余力をもって格太郎を愛撫することを忘れないのだった。格太郎にして見れば、この彼女のわずかばかりのおなさけに、不甲斐ふがいなくも満足している外はない心持だった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、布引氏は不甲斐ふがいなくも、いつしか意識を失ってしまった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、不甲斐ふがいもなくピストル持つ手がワナワナと震えていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)