上口あがりくち)” の例文
お房は上口あがりくちのところへ顏を出すと直ぐに、「ま、先生、能くお寐ツてね。」と他を輕く見たやうな、うはついた調子でいふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
雛妓に言付けて、座敷をななめに切って、上口あがりくちから箪笥の前へ引返ひっかえすと、一番目の抽斗ひきだしが半ばいていた。蝶吉はつッと立って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お光、お銚子ちょうしが出来たよ」と二階の上口あがりくちを向いて呼んだ。「ハイ」とお光はおりて来て自分を見て
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
壇の上口あがりくち気勢けはいがすると、つぶしの島田が糶上せりあがったように、欄干てすり隠れに、わかいのがそっ覗込のぞきこんで
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上口あがりくち突尖とっさきの処、隅の方に、ばさばさした銀杏返いちょうがえし、前髪が膝におッつくように俯向うつむいて、畳に手をついてこう、横ずわりになって、折曲げている小さな足のかかとから甲へかけて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道々手筈てはずを定めけむ、八蔵は銀平と知らざる人のごとくに見せ、その身は上口あがりくちに腰打懸け、四辺あたりをきょろきょろ見廻すは、もしや婦人を尋ねにかと得右衛門も油断せず、顔打守りて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒雲くろくもかついだごとく、うし上口あがりくちれたのをあふいで、うへだんうへだんと、両手りやうてさきけながら、あはたゞしく駆上かけあがつた。……つきくらかつた、矢間やざまそともり下闇したやみこけちてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
上口あがりくちの火鉢のわき突臥つっぷして寝たが、さあ、難儀。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、石段の上口あがりくちに見えました。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)