上乗じょうじょう)” の例文
旧字:上乘
牡丹ぼたんに対し中国人は丹色たんしょくの花、すなわち赤色せきしょくのものを上乗じょうじょうとしており、すなわち牡丹に丹の字を用いているのは、それがためである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「いや、」佐野君は苦笑して、「あなたが落ちたので、鮎がおどろいていなくなったようです。」佐野君にしては上乗じょうじょうの応酬である。
令嬢アユ (新字新仮名) / 太宰治(著)
第三は肉筆掛物中の鯉魚りぎょ幽霊または山水。第四は摺物なり。美人風俗画は比較的その数少くまた北斎作中の上乗じょうじょうなるものにあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これに反して、不良少年のふみ上乗じょうじょうなのになると極めて冷静である。相手に依って美文的に、又は哲学的に辻褄を合わせて書いてある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
已にして古俳書をひもとく、天の川の句しきりに目に触るるを覚ゆ。たとひ上乗じょうじょうにあらざるも皆一種の句調と趣向とを備へて必ずしも陳腐ちんぷならず。例へば
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
前には餓鬼のことをいったから、此歌でも仏教関係の事物を持って来た。前の歌も旨いが、この歌も諧謔の上乗じょうじょうである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
我にずる所なきのみならず、往々上乗じょうじょうくらいして、かの婦人のくせざる所を能くし、その堪えざる所に堪え、彼をして慚死ざんしせしむるものさえ少なからず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
また脇道にれたが、男の美味いとするまぐろの刺身さしみ上乗じょうじょうなものは、牛肉のヒレ、霜降しもふりに当たるようなもので、一尾の中、そうたくさんあるものではない。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
しかし浜の人たちに上乗じょうじょうの東京ミヤゲができそうだ。と考えて、彼自身もまんざらでない気持であった。
左近の怒り (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「ゆうべの宿屋か、ゆうべの宿は至極上乗じょうじょうであった。なかなかもてなしもよく、構えも大きい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代りに⦅経済⦆と⦅秩序⦆という言葉を持ってくれば上乗じょうじょうだと気がついた。
偉大なる凡人ぼんじんとなるは平凡なる豪傑ごうけつとなるよりも、はるかに上乗じょうじょうであると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして探偵小説は描写の技巧の優れたるよりもプロットの優れたものを上乗じょうじょうとすべきであろうと自分は思う。それ故覚束おぼつかない外国語で読んでも、比較的完全にその趣向を味うことが出来るのである。
「二銭銅貨」を読む (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
歌麿の「道行」は彼が生涯の諸作を通じて決して上乗じょうじょうの者にあらざれども、詩歌的男女の恋愛に配するに醜き馬子まごあるひは老爺ろうやの如き人物を以てし
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この句は此の如く理想を含みたる句の上にては上乗じょうじょうとすべき名句なれども、初学者のこの種の句を学ぶは最もあやうし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかし、森啓之助とすれば、実に、上乗じょうじょうなる紐を付けておいたものといわなければなるまい。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヤマユリの球根は、食用として上乗じょうじょうなものである。ゆえにいにしえより、料理ユリの名がある。またその産地にもとづいてヨシノユリ、ホウライジユリ、エイザンユリ、ウキシマユリの名がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
文壇の風潮たとへば客観的小説を芸術の上乗じょうじょうなるものとなせばとてひてこれに迎合げいごうする必要はなし。作者すなわちおのれのがらになきものを書かんとするなかれ。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ともあれ、こんなふうに、寧子の印象はよかったし、御前の首尾しゅび上乗じょうじょうであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とにかく、観賞花としてサクラソウの類は、上乗じょうじょうなものである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
春信が明和二年始めて多数の板木を用ゐて錦絵を案出したりし当時の制作は最も上乗じょうじょうのものにして、仏国ふつこくの浮世絵蒐集家しゅうしゅうか中には特に明和二年板の春信のみを集むるものありといふ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すべからくこの天嶮てんけんって、かれのきたるところをさくによって討つが上乗じょうじょう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや上乗じょうじょうでござったよ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)