一滴いつてき)” の例文
などと、いやうも氣恥きはづかしいが、其處そこたふれまいと、一生懸命いつしやうけんめい推敲すゐかうした。このために、炎天えんてん一滴いつてきあせなかつたのは、あへうた雨乞あまごひ奇特きどくではない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は打ち明けるときは、必ず平生の自分でなければならないものとかねて覚悟をしてた。けれども、改たまつて、三千代に対して見ると、はじめて、一滴いつてきの酒精がこひしくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふべき場合ばあひではないけれども、まことにてん美祿びろくである。家内かない一口ひとくちした。不斷ふだん一滴いつてきたしなまない、一軒いつけんとなりの齒科しくわ白井しらゐさんも、しろ仕事着しごとぎのまゝでかたむけた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明日あしたも御めだ」とこたへて、自分のへや這入はいつた。そこにはとこがもういてあつた。代助は先刻さつきせんいた香水を取つて、括枕くゝりまくらうへ一滴いつてきらした。それでは何だか物足ものたりなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いか、それへやうとふからには、ほたるほしちりやまつゆ一滴いつてきと、大海だいかいうしほほど、抜群ばつぐんすぐれた立優たちまさつたものでいからには、なにまた物好ものずきに美女びぢよ木像もくざうへやう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)