一夕いつせき)” の例文
おご平家へいけを盛りの櫻にくらべてか、散りての後の哀れは思はず、入道相國にふだうしやうこくが花見の宴とて、六十餘州の春を一夕いつせきうてなに集めてみやこ西八條の邸宅。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
一夕いつせき、松川の誕辰たんしんなりとて奥座敷に予を招き、杯盤はいばんを排し酒肴しゆかうすゝむ、献酬けんしう数回すくわい予は酒といふ大胆者だいたんものに、幾分の力を得て積日せきじつの屈託やゝ散じぬ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
折から校書かうしよ十数輩と共に柳橋万八まんぱちの水楼に在りし、明子の夫満村恭平と、始めて一夕いつせきくわんともにしたり。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして僕等ぼくらつき一度いちど同窓會どうさうくわいひらいて一夕いつせきもつときよく、もつとたのしくかたあそぶのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「大軍の日本兵が押し寄せて来たところで、この広大な茶園やキナ事業は、一朝一夕いつせきには日本でやつてゆけるものぢやない。盗んで、汚なく、そこいらへ吐き捨てるのが関の山だね……」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
一夕いつせき友とともに歩して銀街を過ぎ、木挽町こびきちやうに入らんとす、第二橋辺に至れば都城の繁熱漸く薄らぎ、家々の燭影しよくえい水に落ちて、はじめて詩興生ず。われ橋上に立つて友を顧りみ、ともに岸上の建家を品す。
漫罵 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
じだらくに居れば涼しきゆふべかな。宗次そうじ。猿みの撰の時、宗次今一句の入集を願ひて数句吟じ侍れどとるべき句なし。一夕いつせき、翁のかたはらに侍りけるに、いざくつろぎ給へ、我もふしなんとのたまふ。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのすもゝはなはなすもゝころ二階にかい一室いつしつ四疊半よでふはんだから、せまえんにも、段子はしごうへだんにまで居餘ゐあまつて、わたしたち八人はちにん先生せんせいはせて九人くにん一夕いつせき俳句はいくくわいのあつたとききようじようじて、先生せんせい
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)