きば)” の例文
雲おじい、蒼痣あおあざかと、刺青ほりものの透いて見える、毛だらけの脇腹を、蜜柑の汁のきばみついた五本の指で無意味に掻き
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お島はベンチに腰かけて、だるい時のたつのを待っていた。庭の運動場のまわりうわった桜の葉が、もう大半きばみ枯れて、秋らしい雲が遠くの空に動いていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「若菜集」にはまた眞白く柔らかなる手にきばんだ柑子かうじの皮をなかばかせて、それを銀のさらに盛つてすゝめらるやうな思ひのする匂はしくすゞしい歌もある。……
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
少女は此二階家の前に来ると暫時しばら佇止たちどまって居たが、窓を見上げて「江藤えとうさん」と小声で呼んだ、窓は少しあいていて、薄赤い光が煤にきばんだ障子に映じている。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今安永時代の最も精巧なる浮絵を見るにその色彩はかつて湖龍斎の好んで用ひたる褐色かっしょくを主とし、これにきばみたる紅色と緑色とを配合したる処はなはだ調和を得たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きばたゆむ山ふところに
小曲二十篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
崖の草枯れきばみ、この喬木の冬枯ふゆがれしたこずえに烏がむれをなしてとまる時なぞは、宛然さながら文人画を見る趣がある。
拝殿はいでん裏崕うらがけには鬱々うつうつたる其の公園の森をひながら、広前ひろまえは一面、真空まそらなる太陽に、こいしの影一つなく、ただ白紙しらかみ敷詰しきつめた光景ありさまなのが、日射ひざしに、やゝきばんで、びょうとして、何処どこから散つたか
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きばみゆく木草きぐさの薫り淡々あはあは
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
拝殿の裏崕うらがけには鬱々うつうつたるその公園の森を負いながら、広前ひろまえは一面、真空まそらなる太陽に、こいしの影一つなく、ただ白紙しらかみを敷詰めた光景ありさまなのが、日射ひざしに、ややきばんで、びょうとして、どこから散ったか
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)