鬱陶うつたう)” の例文
これより後の事は知らず。我は氣を喪ひき。人あまた集ひて、鬱陶うつたうしくなりたるに、我空想の燃え上りたるや、この眩暈めまひのもとなりけむ。
小林君が洋傘かうもりで指さしたはうを見ると、成程なるほどもぢやもぢや生え繁つた初夏しよか雑木ざふきこずゑが鷹ヶ峯の左の裾を、鬱陶うつたうしく隠してゐる。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
名乘るとすぐ通してくれたのは、奧まつた一室、石津右門相變らず鬼の霍亂くわくらん見たいな顏に、鬱陶うつたうしいしわを刻んで出て來ました。
くるまほろふかくしたが、あめそゝいで、鬱陶うつたうしくはない。兩側りやうがはたか屋並やなみつたとおもふと、立迎たちむかふるやまかげみどりめて、とともにうごいてく。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「……そんなことはお前が訊かいでもえゝ。」辰男は鬱陶うつたうしい聲でさう云つて、自分の居間から齒磨粉と手拭を持つて來て、靜かに階下へ下りて井戸端へ出た。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
六月の末、もう梅雨つゆにかかつてしよぼ降る雨の鬱陶うつたうしい日が幾日となく續いた。それは或る金曜日の第三時間目で、その日も小止をやみない雨に教室の中は薄暗かつた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
雨の降つてゐる日で、室内も周圍から壓迫したやうに鬱陶うつたうしくかげつてゐる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
午後になつて、鬱陶うつたうしく、やゝ霧がかゝつて來た。暗くなるに從つて、私はゲィツヘッドから、隨分遠く離れつゝあることを感じはじめた。町を通過することはなくなつた。土地が變つたのだ。
鬱陶うつたうしい蚕豆。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
殘るのは錢形平次と、小林習之進の母親お世乃と、そして殺されたお通の死骸だけ、暫らくは、鬱陶うつたうしい沈默が續きます。
また家來けらいまた家來けらいふんだけれど、おたがひつまりませんや。これぢや、なんぼお木像もくざうでも鬱陶うつたうしからう、おどくだ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ポカポカする秋日和あきびより、頬冠りは少し鬱陶うつたうしいが、場所柄だけに、少し遲い朝歸りと思へば大して可笑をかしくはありません。
生きてゐるうちこそ多少鬱陶うつたうしいものでしたが、そのやかましい口が永久に閉ざされた今となつては、なつかしくやるせない思ひ出の一つだつたでせう。
秋が深いにしても、朝の光の中に鬱陶うつたうしく頬冠り、唐棧たうざんを端折つて、左のこぶし彌造やざうをきめた恰好は、どう贔屓目ひいきめに見ても、あまり結構な風俗ではありません。
鬱陶うつたうしい日は續きました。世界は六月から七月になつて、不二屋の騷ぎもこれきりになるかと思つた頃、事件は思ひも寄らぬ破局へ乘り上げてしまつたのです。
左の眼から頬へかけて顏半分の繃帶ほうたいをして居るのが、鬱陶うつたうしく重々しい限りですが、それがこの中年増の内儀の美しさを、一層引立てると言つた、不思議な効果です。
それから二た月あまり、無事な——が鬱陶うつたうしい日が續きました。旗本多良井家の腰元の死は、それつきり大した騷ぎにもならず、闇から闇に葬られてしまつたのです。
お秀ののしかゝつて來る年増美の鬱陶うつたうしさに比べて、この娘はまた何んといふ素朴そぼくな存在でせう。
それから二、三日、秋の長雨に降り込められて、錢形平次も鬱陶うつたうしく籠つてをりました。
平次は鬱陶うつたうしさうでした。遲れた櫻もようやくほころび始めて、世の中は春たけなはなるべき筈なのに、雪が春先まで降つたのと、薄寒い日が續いたので、江戸の景氣も一向に引立ちません。
鬱陶うつたうしくさへ感じさせますが、その嚴重さは目を驚かすばかり、不要の部屋々々は閉めきつたまゝ、格子のないところは、さんと心張りの外に、全部の雨戸にかんぬきまで差してゐるのです。
平次はこの慾の深さうな主人と長く話して居るのが鬱陶うつたうしくなつた樣子です。
この男ののろひを聞いて居るのは、平次にも少し鬱陶うつたうしいことでした。
何にかしら、平次にも鬱陶うつたうしい日が續いたのです。
この鬱陶うつたうしい空氣の中に、六日目の晝頃。