飯焚めしたき)” の例文
実際、中村、鈴田、小山田とだんだん同宿の者が減ってきては、飯焚めしたきの男を除けば、もう小平太のほかに留守をするものもなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
驚き何者の所爲しわざなるかと見返へれば是すなは別人べつじんならず彼の飯焚めしたきの宅兵衞なれば吾助は大いに怒りおのれ如何なれば掛る振舞ふるまひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
帰りに下女部屋をのぞいて見ると、飯焚めしたき出入でいりの車夫と火鉢ひばちはさんでひそひそ何か話していた。千代子にはそれが宵子の不幸を細かに語っているらしく思われた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其處に彼は、よぼよぼした飯焚めしたきの婆さんと兩人ふたりきりで、淋しいとも氣味が惡いとも思はずに住ツてゐる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
自分ばかりが博識ものしりがるものなり、菊塢きくう奥州おうしうよりボツト出て、堺町さかひてう芝居茶屋しばゐぢやや和泉屋いづみやかんらうかた飯焚めしたきとなり、気転きてんくより店の若衆わかいしゆとなり、客先きやくさき番附ばんづけくばりにも
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「うんにゃ、俺らのほかには飯焚めしたきが一人、そのほかによそから来ている人はいねえ」
飯焚めしたきなんぞをするより、酌でもしてくれれば、嫁入支度位は直ぐ出来るようにして遣ると、兄が勧めたので、暫く博多に行っていたが、そこへ来る客というのが、皆マドロスばかりで
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
庭へは時々近辺の子供が鬼ごっこをしながら乱入して来ては飯焚めしたきの婆さんに叱られている。多く小さい男の子であるが、中にいつも十五、六の、赤ん坊を背負った女の子が交じっている。
雪ちゃん (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
長「いゝえ、お母はわたくしが十七の時死にました、あれは飯焚めしたきの雇い婆さんです」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
総じて世の中は与ふる者威張いばり与へらるる者下るの定則と見えてさすがの兵卒殿も船の中に居て船の飯を喰ふ間は炊事場の男どもの機嫌を取る故にや飯焚めしたきの威張るつらの憎さにも浮世は現金なり。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「あの教師あ、うちの旦那の名を知らないのかね」と飯焚めしたきが云う。「知らねえ事があるもんか、この界隈かいわいで金田さんの御屋敷を知らなけりゃ眼も耳もねえ片輪かたわだあな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぞ待にける爰に飯焚めしたきの宅兵衞と云は桝屋ますや久藏が豐前ぶぜん小倉に居る時よりの飯焚にて生得しやうとく愚鈍ぐどんなる上最もしはく一文の錢も只はつかはず二文にして遣はんと思ふ程の男なれども至極しごくの女好にて年は五十を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
飯焚めしたきは下女部屋に引き下がっている。須永と女とは今差向いで何か私語ささやいている。——はたしてそうだとするといつものように格子戸こうしどをがらりと開けて頼むと大きな声を出すのも変なものである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するのみなり時に半四郎は大音だいおんあげ盜人どろばう這入はひりしぞや家内の者共起給おきたまへ/\とよばはるにぞ夫れと云つゝ亭主は勿論もちろん飯焚めしたき下男迄一同に騷ぎたち盜人は何處いづくへ這入しと六尺棒或ひは麺棒めんぼう又ははゝき摺子木すりこぎなど得物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)