鞠子まりこ)” の例文
やがて江戸のまちも花に埋もれやうといふ三月の中旬、廣重の鞠子まりこの繪を見るやうに、空までが桃色にくんじたある日のことでした。
他にも招待があつたとかで、珍らしく醉つてゐる勢ひで、遠藤が若い藝者どもをからかふのにつれて、鞠子まりこといふ一人を捕へ
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
風はそのままんでいる。広い河原にかすみが流れた。渡れば鞠子まりこ宿しゅくと聞く……梅、若菜わかなの句にも聞える。少し渡って見よう。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鞠子まりこ宿しゅくもさっさと素通すどおりをして上へ上へとのぼって行くのでしたが、ちょうど、鞠子の宿の池田屋源八という休み茶屋の前を通りかかると
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その梅や若菜の時分に東海道を旅して鞠子まりこの宿について、そこのとろろ汁を食べもするであろう、と乙州の旅行を思うて挨拶を贈ったのが発句。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一人は黒川博士のお嬢さん鞠子まりこさん、もう一人はっきから話題に上っていたミディアムの龍ちゃんだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
餉台ちやぶだいのうへに煮立つてゐる牛肉で御飯を食べてゐることもあつたし、子供部屋で妹の鞠子まりこの着物に縫ひあげをしてもらつて、着せられてゐるのを見たこともあつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
見て安五郎はアヽ若コレ御内儀粗忽そそうな事を申されな小松屋の遊女白妙しらたへを連て立退たちのきしは此安五郎にちがひなけれど然ながら其節我は鞠子まりこ柴屋寺しばやでらへ先に參りて白妙しろたへの來るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「オイッ! 鞠子まりこまでいくらでまいるっ? なに、府中ふちゅうより鞠子へ一里半四十七文とな?」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と呼ぶ子供を見つけて、高瀬は自分の家の前の垣根のあたりで鞠子まりこと一緒に成った。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうして二人は、鞠子まりこ本宿ほんじゅくから二軒家にけんや立場たてばへは休まずに宇都谷峠うつのやとうげの上りにかかりました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こめし櫻山めぐふもとに風かほる時は卯月うづきの末の空花の藤枝ふぢえだはや過て岡部に續く宇都うつの山つたの細道十團子とほだんご夢かうつゝにも人にもあはぬ宇都の谷と彼の能因のういんが昔を今にふりも變らぬ梅若葉鞠子まりこの宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鞠子まりこは霞む長橋ながばしの阿部川の橋の板を、あっちこっち、ちらちらと陽炎かげろうが遊んでいる。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今もあの映画を写しつづければ、きっと僕とお姉さまだけでなくて、お父さまも、鞠子まりこも、大写しの顔が出るたびに、同じ事が起こったに違いないんだ。僕はちゃんとそれを知っていたんだ。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そんな比羅絵びらえを、のしかかって描いているのが、嬉しくて、面白くって、絵具を解きめた大摺鉢おおすりばちへ、鞠子まりこ宿しゅくじゃないけれど、薯蕷汁とろろとなって溶込むように……学校の帰途かえりにはその軒下へ
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かりの隱れみの頭巾づきんの上に網代笠あじろがさふかくも忍ぶ大門口相※あひづせきに重五郎其所へ御座るは花魁おいらんかと言れて白妙回顧ふりむきオヽ重さんか安さんはへ其安さんはもうとく鞠子まりこへ行て待てゞ在ば暫時ちつとも早くと打連立うちつれだち彌勒みろく町を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お伊勢様へお賽銭さいせんを上げるからと言いおる故、起き出でてその銭をかついで行くと、たしか鞠子まりこの入口かと思った、普請小屋へはいりしが、おれもつづいて入りしが、三十人ばかり車座になりおって