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霜燒
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しもや
窓から
半身を
乘り
出してゐた
例の
娘が、あの
霜燒けの
手をつとのばして、
勢よく
左右に
振つたと
思ふと、
忽ち
心を
躍らすばかり
暖な
日の
色に
染まつてゐる
蜜柑が
凡そ
五つ
六つ
しかも
垢じみた
萌黄色の
毛絲の
襟卷がだらりと
垂れ
下つた
膝の
上には、
大きな
風呂敷包みがあつた。その
又包みを
抱いた
霜燒けの
手の
中には、三
等の
赤切符が
大事さうにしつかり
握られてゐた。
だから
私は
腹の
底に
依然として
險しい
感情を
蓄へながら、あの
霜燒けの
手が
硝子戸を
擡げようとして
惡戰苦鬪する
容子を、まるでそれが
永久に
成功しない
事でも
祈るやうな
冷酷な
眼で
眺めてゐた。