雲水うんすい)” の例文
一夕、雲水うんすいの僧に変じて、団九郎は山門をくぐった。折から弁兆は小坊主の無断不在をかこちながら、酒食の支度に余念もなかった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「見うけるところ、二ひきとも、乞食こじきにちかい六部ろくぶ雲水うんすい下手へたなところへでしゃばると、足腰あしこしたたぬ片端者かたわものにしてくれるぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある夏の日、笠をかぶった僧が二人ふたり朝鮮ちょうせん平安南道へいあんなんどう竜岡郡りゅうこうぐん桐隅里とうぐうり田舎道いなかみちを歩いていた。この二人はただの雲水うんすいではない。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「気楽ではいけません。道楽にできるものなら、二十年も三十年も雲水うんすいをして苦しむものはありません」と宜道は云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雲水うんすいに似た旅人芭蕉も、時には一定の住所にいおりを構えて、冬の囲炉裏いろりを囲みながら、わびしく暮していたこともある。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
芭蕉はほとんど雲水うんすいの僧同様日本国中を行脚あんぎゃしてまわった人で、この句もその旅行の句であります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ついこの冬の末にそれもこの二本松のお城下にあった話じゃそうに厶りまするが、怪談にうたは旅の憎じゃとか申すことで厶りました。多分修行なかばの雲水うんすいででも厶りましたろう。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
折りふし一人の雲水うんすい、彼の高風を慕って、一日その茅屋あばらやを訪れたのですが、あいにく、薬をとりに行くところだったので、「しばらく待っていてくだされ」といい残しつつ、待たせておいて
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
墻外しょうがい。処々に柳の立木あり。墻の彼方に天主堂の屋根見ゆ。その頂の黄金の十字架、落日の光に輝けり。雲水うんすいの僧一人、村の童と共に出で来る。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはさきに、尊氏の密命をうけて、浄光明寺の門から、旅の一雲水うんすいに化けて、どこへともなく立去っていた侍臣一色右馬介についてであるが。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうした同じ「心の家郷」を、芭蕉は空間の所在に求め、雲水うんすいの如く生涯を漂泊の旅に暮した。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
近づいてゆくと、門前に誰か悄然しょんぼりと立っている。網代笠あじろがさを被った雲水うんすいの胸に、一人の少年が、顔を当てて泣いていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ突然はいって参ったのは、雲水うんすいの姿に南蛮頭巾なんばんずきんをかぶった、あの阿媽港甚内あまかわじんないでございます。わたしは勿論驚きもすれば、またいかりも致しました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
例の雲水うんすい姿である。だが髪もひげも伸びに伸びて、乞食僧のように疲れはてた影は、尊氏の目もいたむほどだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、雪明ゆきあかりに見た相手の姿は、不思議にも雲水うんすいのようでしたから、誰も追う者のないのを確かめたのち、もう一度あの茶室の外へ、大胆だいたんにも忍んで行ったのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「されば、これは国々の会下えかをめぐり、近くは鳳儀山ほうぎさんの大智和尚にも参じていた旅の雲水うんすいでござりまする」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしはその時声もかけずに、さかいふすまを明けたのですから。——しかもわたしの身なりと云えば、雲水うんすいに姿をやつした上、網代あじろの笠を脱いだ代りに、南蛮頭巾なんばんずきんをかぶっていたのですから。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
時を一つにして、銅仏寺の前では、雲水うんすい姿の花和尚魯智深ろちしんと、行者武松ぶしょうが、人待ち顔にたたずんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行脚あんぎゃ雲水うんすいよりひどいのもあるし、また、塚原卜伝の如きは、道中、常に六、七十人の供人を連れ、家来にこぶしに鷹をすえさせ、侍臣には、乗換馬のりかえうまを曳かせて、威風堂々と
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法衣を見てもすぐ分る通り禅家の雲水うんすいさんである。油蝉あぶらぜみみたいな黒い皮膚をし、かなつぼまなこというのか、眼のくぼがくぼんでいて、高い眉骨の下から、ひとみがぴかぴかしている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木妻こづまノ辻のあたりまで来て、附近の新開地的な変り方に、雲水うんすいは驚いていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっ、雲水うんすいさん。そいつあだめです。坊さま向きじゃございませんよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち武田伊那丸たけだいなまるは、眉目びもくをあさく藺笠いがさにかくし、浮織琥珀うきおりこはく膝行袴たっつけに、肩からななめへ武者結むしゃむすびのつつみをかけ、木隠龍太郎こがくれりゅうたろう白衣白鞘びゃくえしらさやのいつもの風姿なり、また加賀見忍剣かがみにんけんもありのままな雲水うんすいすがた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後にすぐ、新しい草鞋をはいた主水の雲水うんすい姿が立った。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)