隣人りんじん)” の例文
利害りがい打算ださんからへば無論むろんことたん隣人りんじん交際かうさいとか情誼じやうぎとかてんからても、夫婦ふうふはこれよりも前進ぜんしんする勇氣ゆうきたなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、息子むすこをなくした隣人りんじんを何と言って慰めてよいか、知らない。彼は、アダッド・ニラリ王のきさき、サンムラマットがどんな衣装いしょうを好んだかも知っている。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それらは、私が他人にむかつて與へる冷笑や非難を、自分自身にあびせるのが尤もな位のものなんです。そして隣人りんじんから非難や嘲弄を受けるやうなものなんです。
それでも、彼女はまるで隣人りんじん同士のように遠慮えんりょしてしまって、なかなか歩をそろえようとはしなかった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
わたしのいない間に、母は新しい隣人りんじんから、灰色の紙にしたためた手紙を受取っていた。しかもそれをふうじた黒茶色の封蝋ふうろうときたら、郵便局の通知状か安葡萄酒やすぶどうしゅせんにしか使わないような代物しろものだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
野蠻未開やばんみかいの社會に於ては分業盛に行はれず、大工、土方の如き固り獨立どくりつして存す可き職業しよくぎやうにあらず。此故に住居新築じうきよしんちくの擧有れば隣人りんじんあひたすけて土木の事にしたかふを常とす。コロボックルも亦然りしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
畑青し東三省は滅ぶ無し煩らふなかれよき隣人りんじん
隣人りんじんは露西亜の地主ぢぬしのごとく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夫婦ふうふ和合わがふ同棲どうせいといふてんおいて、人並ひとなみ以上いじやう成功せいこうしたと同時どうじに、子供こどもにかけては、一般いつぱん隣人りんじんよりも不幸ふかうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小里氏が気がくるったそうだが、気の毒な隣人りんじんは大いに慰さめてあげる事だ
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
多分たぶん牛乳ぎうにゆう配達はいたつするためかなどで、あゝいそぐにちがひないとめてゐたから、此音このおとくとひとしく、もうけて、隣人りんじん活動くわつどうはじまつたごとくに、心丈夫こゝろぢやうぶになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
世間は隣人りんじんに対して現金げんきんである如く、英雄ヒーローに対しても現金である。だから、う云ふ偶像にも亦常に新陳代謝や生存競争が行はれてゐる。さう云ふ訳で、代助は英雄ヒーローなぞにかつがれたい了見は更にない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)