鈍色にびいろ)” の例文
はっと身体を硬くした途端、鈍色にびいろにつらぬくものが女の掌に光った。拳銃であった。黒い銃口はまっすぐ宇治の胸にむけられていた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
素気すげなきカーフの背を鈍色にびいろに緑に上下うえしたに区切って、双方に文字だけをちりばめたのがある。ざら目の紙に、ひんよく朱の書名を配置したとびらも見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
KはBの体を、白い床の上にしずかに横たわらせた。赤いネクタイが、窓から洩るる鈍色にびいろ光線ひかりに黒ずんで見えた。背の高い黒い姿が夜の色より黒かった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
夜目にもそれと知れる鈍色にびいろの小狩衣を薄手に着こなし、葡萄牙渡りの悪魔でもんの面甲をつけた男があらわれたと見るうちに、潜戸から行子が走りだしてきて
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
雨の日の暮れ易い空は、いつかもうどす黒い夕闇がのしかかって、沼の水ばかりが鈍色にびいろに光っていた。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
森も畑も見渡すかぎり真青になって、掘立小屋ほったてごやばかりが色を変えずに自然をよごしていた。時雨しぐれのような寒い雨が閉ざし切った鈍色にびいろの雲から止途とめどなく降りそそいだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その姿を見出すことが出来なかつたために、この三日といふもの、あたりのものがすべて鈍色にびいろに見えたほどのかの女がそこにゐるではないか。Kは二三歩歩いてそつちへ行つて
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
第一、けさは朝霧が下りていると云うのでもなしに、変にうす曇っていて、空も湖水も一めんに鈍色にびいろだ。妙高にも、黒姫にも雲が無くて、輪廓りんかくだけがぼおっとぼやけて見えている。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あの鈍色にびいろの液状のパルプが、次の機械へ薄い薄い平坦面を以て流れて落ちると、次の機械では、それが何時いつのまにか薄紫の、それは明るい上品な桐の花色の液となってすべり、長い網の
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その黄色や白色は非常に鮮やかで輝いて見える。さらにまれには、しめじ茸の一群を探しあてることもある。その鈍色にびいろはいかにも高貴な色調を帯びて、子供の心に満悦の情をみなぎらしてくれる。
茸狩り (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
鈍色にびいろかしのつくりや、かへでの木、杉のとこにも。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
朝は深い靄のために鈍色にびいろに曇っていた。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
鈍色にびいろ懶怠たゆみうちに、あでやかな爪の間で
カタコンブなる鈍色にびいろ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
鈍色にびいろ被衣かづぎぞたゆげに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
鈍色にびいろ寂寞じやくまく
寂寞 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
秋空は鈍色にびいろにして
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
赤錆の出たブリキ屋根の上には、生温なまぬるい日の光も当らない。鈍色にびいろを放った雲が、その上を見下ろしながら過ぎた。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大きなメスや、小さなメスや、小型のドリルや、その他いろんな形の器具が整然と収められ、鈍色にびいろに磨き上げられていた。ドリルは頭蓋に穴をあけるためのものであった。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
登り詰めたるきざはしの正面には大いなる花を鈍色にびいろの奥に織り込める戸帳とばりが、人なきをかこち顔なる様にてそよとも動かぬ。ギニヴィアは幕の前に耳押し付けて一重向うに何事をかく。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鈍色にびいろかしのつくりや、かへでの木、杉の床にも。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
くもにごれる鈍色にびいろ水沼みぬまおもを。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
花田の掌にあるものは鈍色にびいろにひかる小さな拳銃であった。全身の血が凍りつくような気がして、宇治は顔色を変えて身構えた。宇治の右手も無意識の中に略刀帯の拳銃にかかっていた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
色青き大山たいざん鈍色にびいろ名無ななしをか
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
鈍色にびいろ長きころもみな瞳をつぶる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)