鄭重ていちよう)” の例文
どうか斯う云ふ貴重品は鄭重ていちように扱つて、縱令たとひそれに改正を加へると云ふにしても、徐々に致したいやうに思ふのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
博士はイプセンの流行はやつた当時守り本尊の沙翁セキスピヤをしまひ込んだと同じ程度の鄭重ていちようさで、そのフロツクコートをまた箪笥に蔵ひ込んでしまつた。
其所そこ下女げぢよが三じやくせま入口いりぐちけて這入はいつてたが、あらためて宗助そうすけ鄭重ていちよう御辭儀おじぎをしたうへ木皿きざらやう菓子皿くわしざらやうなものを、ひとまへいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二人は家内かないの紳士をあつかふことのきはめて鄭重ていちようなるをいぶかりて、彼の行くより坐るまで一挙一動も見脱みのがさざりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
折角だが御依頼通りになり兼ねると云ふ彼の返事は、むしろ彼としては、鄭重ていちようを極めてゐた。すると、折返して来た手紙には、始から仕舞まで猛烈な非難の文句の外に、何一つ書いてない。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして富之助に對する態度も夏休前とは全く異つて、異常に鄭重ていちようで、少しも馴れ馴れしい所を示さなかつた。殊に今日釣に出てからは殆ど物を言はないで、唯考へ事ばかりしてゐるやうに見えた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
わたくしは鄭重ていちようにかがんでそれに唇をあてる
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
小六ころくにしてゐた佐伯さへきからは、豫期よきとほり二三にちして返事へんじがあつたが、それはきはめて簡單かんたんなもので、端書はがきでもようりるところを、鄭重ていちよう封筒ふうとうれて三せん切手きつてつた、叔母をば自筆じひつぎなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)