むかい)” の例文
三人のむかいは来ていたが、代助はつい車をあつらえて置くのを忘れた。面倒だと思って、嫂のすすめしりぞけて、茶屋の前から電車に乗った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とばかりはたと扇子落して見返りし、凄艶せいえんなる目のうちに、一滴の涙宿したり。皆泣伏しぬ。むかいくるま来たれば乗りて出でき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お杉は痩せた手をあげて差招さしまねくと、お葉はさながら死神のむかいを受けた人のように、ただふらふらと門口かどぐちへ迷い出た。お清もつづいて追って出ると、ばばあしずかみかえって
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その年うるう五月五日、咸臨丸かんりんまる無事ぶじ帰朝きちょうし、かん浦賀うらがたっするや、予が家の老僕ろうぼくむかいきたりし時、先生老僕ろうぼくに向い、吾輩わがはい留守中るすちゅう江戸において何か珍事ちんじはなきやと。
すると彼はすぐ自分の立っている高い壇から降りてうちへ帰らなければならないような気がした。あるいは今にも宅からむかいが来るような心持になった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「御免蒙るッて、来ないつもりか。おい、お嬢様が御用があるッて、僕がわざわざむかいに来たんだが、御免蒙る、ふん、それでいのか。——御免蒙る——」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思い切って、自分でけ出して医者をむかいに行こうとしたが、あとが心配で一足も表へ出る気にはなれなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度同級の者と掴合つかみあいをしてげて帰って、それッきり、登校しないのを、先生がわざわざ母親の留守にむかいに来て連れて行って、そのために先生はほかの生徒の父兄等に信用を失って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父は二人に切腹をさせる前、もう一遍母にわしてやりたいと云う人情から、すぐ母をむかいにやった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
用意が出来たらいつでも来い、同志の者のむかいなら、冥途めいどからだって辞さないんだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菊枝は前の囲者が居た時分から、縁あってちょいちょい遊びに行ったが、今のお縫になっても相変らず、……きっとだと、両親ふたおやが指図で、小僧兼内弟子の弥吉やきちというのをむかいに出すことにした。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もう来そうなもんですね、ちょうさんも。あれほどいってあるんだから忘れるはずはないんだが。それに今日は明けの日だから、遅くとも十一時頃までには帰らなきゃならないんだから。何ならちょっとむかいりましょうか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中には荷車がむかいに来る、自転車を引出すのもある。年寄には孫、女房にはその亭主が、どの店にも一人二人、人数がえるのは、よりよりに家から片附けに来る手伝、……とそればかりでは無い。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもて合すにはばかりたれば、ソと物の蔭になりつ。ことさらに隔りたればぬすみ聴かむよしもあらざれど、渠等かれら空駕籠は持て来たり、大方は家よりしてむかいきたりしものならむを、手を空しゅうして帰るべしや。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じゃあ、旦那様がおむかいにお出で遊ばしたら
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おむかいに参りました。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(また、むかいかい。)
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)