よろ)” の例文
よろけながら、後ろへやった刀が、かつんと、鉢金に弾んだと思うと、鍔から三、四寸の所から、折れて、氷柱つららのように、すッ飛んだ。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神戸の縉商しんしょうであるNさんなぞは、飄逸な海亀さながらの長い首を前伸びによろけさして、ヤレ漕げソレ漕げエンヤラヤアノヤアヤである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
相合傘あい/\がさよろけながら雪道の踏堅めた所ばかり歩いて来ますが、ヒョロリ/\として彼方あっちへ寄ったり此方こっちへ寄ったり、ちょうど橋詰まで来ると
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あゝとばかり我れ知らず身を振はして立上たちあがり、よろめく體を踏みしむる右手の支柱、曉の露まだ冷やかなる内府の御墳みはか、哀れ榮華十年の遺物かたみなりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
よろめいて歩こうが、眼をつぶって歩こうが、それとも後向きに歩こうが、誰も何ともいうものがなく、号笛を鳴らして神経をやたらに刺戟するものもいないのである。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は決心したらしく傍目わきめも振らずにズンズンと歩き出した。彼は表門を出て坂を下りかけてみたが、先刻さっきは何の苦もなくスラスラと登って来た坂が今度は大分下りにくい。彼は二三度よろめいた。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
彼は何か出張でばった石の頭につまずいてよろけた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
廿人力ある奴が力を入れて押したから流石さすがの文治もよろめきながら石垣の処へ押付けられましたが、そこは文治郎柔術やわらを心得て居りますから少しも騒がず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぎられそうな片腕をふり切った千浪は、逸早いちはやく、よろめき立って飛鳥の如く走りかけた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空しく迎えのランチもはしけも、煙と汽笛と駄目だ駄目だというかしましい叫び声だけを、おそろしく高く低く上下させながら、空と浪とに掻き濁して、またよろけ踉けて引き還してしまったのであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
雨の中で打合うちあいが始まり、大の男が女をとらえて蹂躙ふみにじります様子が烈しいゆえ、見兼て丹治殿が突然いきなり女を連れて逃げようとする仁助の横鬢よこびんつ、たれて仁助はよろける途端
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、掴まれた襟がみへ、片手をのばして、雲霧はよろめいた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頬からあごへかけて一ぱいに髭の生えて居る恐ろしい怖い顔の侍が、ヨロ/\ッとよろけてまいり、巡礼の老爺じいさんに突当ったから、老爺おやじが転ぶと侍が其の上を飛び越して向うの泥濘ぬかるみへ転がりましたが
と云いながらひょろ/\とよろけてハタと臀餅しりもちき、ようやく起きあがってひたいにらみ、いきなり拳骨げんこつふる丁々ちょう/\と打たれて、中間は酒のとが堪忍かんにんして逆らわず、大地に手を突きこうべを下げて、しきりにびても
酒の機嫌で作藏を連れてヒョロ/\よろけながら帰って来て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)