かッ)” の例文
すぐに分った、店口を入る、茶のと正面の階子壇はしごだんの下に、炭火のかッと起った台十能だいじゅうを片手に、立っていたのがすなわち内儀で。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
君がいわゆる実家さと話柄こととて、喋舌しゃべる杢若の目が光る。と、黒痘痕くろあばたまなこも輝き、天狗、般若、白狐の、六箇むつの眼玉もかッとなる。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お道さんが、さんばら髪に肩を振って、身悶えすると、消えかかった松明がかッと燃えて、あれあれ、女の身の丈に、めらめらと空へ立った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出刃を落した時、かッと顔の色に赤味を帯びて、真鍮しんちゅう鉈豆煙草なたまめぎせるの、真中まんなかをむずと握って、糸切歯で噛むがごとく、引啣ひっくわえて
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と小突いて、入交いりかわって、むかいの生垣に押つけたが、蒼ざめたやっこの顔が、かッと燃えて見えたのは、咽喉のんどを絞められたものである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、註文通り、火鉢に湯沸ゆわかしが天上して来た、火もかッと——この火鉢と湯沸が、前に言った正札つきなる真新しいのである。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と米はかたわらから押隔てると、敵手あいてはこれなり、倉はせんを取られた上に、今のお懸けなさいましでかッとなっている処。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くだんの通天門を入ると、かッあかるく、不残真紅のこらずまっか。両方から路をせばめて頬がほてるようだが、それは構わん。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日のかッと当る時は、まばゆいばかり、金剛石ダイヤモンド指環ゆびわから白光びゃっこうを射出す事さえあるじゃありませんか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夢がどうした、そんな事は木片こっぱでもない。——俺が汝等うぬらの手でつら溝泥どぶどろを塗られたのは夢じゃないぞ。このかッと開けた大きな目を見ろい。——よくもうぬ、溝泥を塗りおったな。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若い男が田舎気質かたぎかッ逆上のぼせた深嵌ふかはまりで、家も店もつぶしたはてが、女房子を四辻へ打棄うっちゃって、無理算段の足抜きで、女を東京へ連れてげると、旅籠住居はたごずまいの気を換える見物の一夜。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八畳一杯かッと陽気で、ちょうどその時分に、中びけの鉄棒かなぼうが、近くから遠くへ、次第にかすかになって廻ったが、その音の身に染みたは、浦里時代の事であろう。誰の胸へも響かぬ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金屏風の背後うしろから謹んで座敷へ帰ったが、上段のの客にはちと不釣合な形に、脇息きょうそくを横倒しに枕して、ごろんとながくなると、瓶掛の火が、もみじをいたようにかッと赤く、銀瓶の湯気が
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)