諄々くどくど)” の例文
『ハイ。』と答へて、薬局生はさじを持つた儘中に入つてゆく。居並ぶ人々は狼狽うろたへた様に居住ひを直した。諄々くどくどと挨拶したのもあつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「折角よい道連れと存じたが、それではぜひもござらぬ。——したが、昨夜も諄々くどくどお話ししたが、ぜひ一度、仙台の方へお越しください」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欧米の人はかかる事をちょっと聞いたきり雀で、諄々くどくど枝葉の子細を問わず、つとめて自ら研究してその説の真偽を明らめ、偽と知れたらすなわちやむ。
お勢のあくたれた時、お政は娘の部屋で、およそ二時間ばかりも、何か諄々くどくど教誨いいきかせていたが、爾後それからは、どうしたものか、急に母子おやこの折合がよくなッて来た。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
死骸の肩に手を掛けんばかりにして諄々くどくどと説いていたが、そうしようという気もなく、利七の死骸を眺め廻しているうちに、ちょっと不思議なことに気が附いた。
そしてその後のことはもはや諄々くどくど並べ立てる必要もないであろう。冒頭に抽出した四月二十三日のエキセルシオール紙が、御丁寧にも妻のきずの個所まで数え立ててくれている。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「そんなことをおっしゃらないで買って下さいまし、こちらの旦那さまにあがって頂こうと思って、ほかの家の前を素通りして持って来たんですから」諄々くどくどとそういうのが聞えた。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
諄々くどくど黒暗くらやみはじもうしてあなたの様ななさけ知りの御方に浅墓あさはか心入こころいれ愛想あいそつかさるゝもおそろし、さりとて夢さら御厚意ないがしろにするにはあらず、やさしき御言葉は骨にきざんで七生忘れませぬ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ここに改めて諄々くどくどしく述べる必要はないが、後にこの物語に重大な関係を持って来るし、私を笠神博士に結びつけたのも、血液型の問題が重要な役目をしているので、ここで鳥渡触れたいと思う。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そこで老人は破顔一笑して、諄々くどくどと直綴の説明をはじめたようです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同じ事を遠𢌞しに諄々くどくどと喋り立てたのであるが、母親は流石に涙顏をしてゐたけれども、定次郎は別に娘の行末を悲觀してはゐなかつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
捕まえてみると、この附近の土民らしく、馬の背に、穀物の俵を積み、夜を通して、塩尻しおじりの問屋まで行く途中だという。そしてなお、諄々くどくど
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬鹿馬鹿しく、忌々しく手も足も出ないような心持でジリジリしていると、巡査は不愛想な俺の顔を見て、悲歎に暮れているとでも感ちがいしたのか、諄々くどくどと弔辞を述べてから
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「おい久木、もうよせ」東湖は客の言葉を無視して、面倒臭そうにさえぎった、「そんな詰らぬことを諄々くどくどとなんだ、勝ち負けがうろんならやり直せばいいじゃないか、おまえにも似合わんぞ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
真面目まじめ理屈りくつしんなり諄々くどくどと説諭すれば、不思議やさしも温順おとなしき人、何にじれてか大薩摩おおざつまばりばりと語気はげしく、らざる御心配無用なりうるさしと一トまくりにやりつけられ敗走せしが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
教祖島村美支子みきこの一代記から、一通ひととほりの教理まで、重々しい力の無い声に出来るだけ抑揚をつけて諄々くどくどと説いたものだ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
老舗しにせの奉公人の常として、実直すぎて前措まえおきも諄々くどくどしいが、つづまる所、要旨は、次のようなことだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言つてる所へ、うちの中から四十五六の汚らしいなりをした、内儀かみさんが出て来て、信吾が先刻さつき寄つて呉れた礼を諄々くどくどと述べて、夫もモウ帰る時分だから是非上れと言ふ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、玄堂と同様な言い訳を諄々くどくどとならべ立てて、どうか、かみ屋敷の方へ移ってくれと申します。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不図渠は、諸有あらゆる生徒の目が、諄々くどくどと何やら話し続けてゐる校長を見てゐるのでなく、渠自身に注がれてゐるのに気が付いた。いつもの事ながら、何となき満足が渠のこころを唆かした。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『左様さ。わしはな……』と、松太郎は少許すこし狼狽うろたへて、諄々くどくど初対面の挨拶をすると
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『千早さん、先刻さつきいそがしい時で……』と諄々くどくど弁疏いひわけを言つて
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)