うったえ)” の例文
三光稲荷は失走人の足止の願がけと、鼠をとる猫の行衛ゆくえ不明のうったえをきく不思議な商業あきないのお稲荷さんで、猫の絵馬が沢山かかっていた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
浪人原口作左衛門を、禁断の鍼で殺したという家人のうったえで、按摩佐の市は、時の南町奉行、遠山左衛門尉とおやまさえもんのじょう直々じきじき取調とりしらべを受けて居ります。
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「なるほどそれでジャムの損害をつぐなおうと云う趣向ですな。なかなか考えていらあハハハハ」と迷亭は細君のうったえを聞いておおいに愉快な気色けしきである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勢を得たので七、八人の者が続いて訴えたが、そのおわったのは三時にもなっただろう。スルと参事官が立上って、大体要領は得た、更に何か変った、新しい方面のうったえは無いかと尋ねた。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
ベドウスはその恐喝を警察へうったえもしなかったと見える。またハドソンがどこかへかくれてしまったと云うことから、警察ではハドソンがベドウスを殺して、どこかへ逃げたものと想像している。
右門くわだてノ儀ハ、兵学雑談、あるいハ堂上方ノ儀、その外恐入候不敬ノ雑談申散もうしちらし候ハ、其方共申立もうしたてヨリ相知レ候、大弐ハ死罪、右門儀ハ獄門まかり成、御仕おき相立候ニ付、不届ナガラうったえ人ノ事故此処ヲ以テ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
最前よりいろ/\事の道理を分けて御意見申上候得そうらえども、御聞入れ無之候得者これなくそうらえば、是非なき次第に候間、このまゝ手足を縛りてなりとお屋敷へ連れ帰り、御不憫ごふびんながら不義密通のうったえをなしもうすべしと
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その頃都で名高い加茂の長者からうったえがありました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
時々遠くから不意に現れるうったえも、苦しみとか恐れとかいう残酷の名を付けるには、あまりかすかに、あまり薄く、あまりに肉体と慾得を離れ過ぎるようになった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
草鞋わらじを穿いて領内を巡視したり、お城の中に水田を作らせたり、貧しい百姓町人を引見してうったえを聴いたり、それは不徹底で間に合せの名君振りだったにしても、うやら領内の噂もよく
不届ノいたり、殊ニ其方共ノうったえヨリ、大勢無罪ノモノまで入牢イタシ、御詮議ニ相成リ、其上無名ノ捨訴状すてそじょう捨文すてぶみ有之これあり、右したため方全ク其方共ノ仕業しわざニ相聞エ、重科じゅうかノ者ニ付死罪申付もうしつくベキ者ニ候ところ大弐だいに
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その腹痛と言ううったえいだいて来て見ると、あにはからんや、その対症療法として、むずかしい数学の問題を出して、まあこれでも考えたらよかろうと云われたと一般であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十はたちを越すか越さないのに、しゅうとと二人暮しで一生を終る。こんな残酷な事があるものか。御母さんの云うところは老人の立場から云えば無理もないうったえだが、しかし随分我儘わがままな願だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御互が御互にきるの、物足りなくなるのという心は微塵みじんも起らなかったけれども、御互の頭に受け入れる生活の内容には、刺戟しげきに乏しい或物が潜んでいるようなにぶうったえがあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでも一年ばかりの間は、もう一返親父を説き付けて、東京へ出る出ると云って、うるさい程手紙を寄こしたが、この頃は漸く断念したと見えて、大した不平がましいうったえもしない様になった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)