要塞ようさい)” の例文
アゴラ(アテネの要塞ようさい)はディドローを監禁するであろうが、それと同じくヴァンセヌの要塞はソクラテスをつかみ取るであろう。
それから間もなく僕たちは家へ帰りかけたが、その途中でG——中尉ちゅういに会った。虫を見せたところ、要塞ようさいへ借りて行きたいと頼むのだ。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
囚徒の一人は看守について、何かの道具をとりに要塞ようさいへ行った。いま一人はたきぎをこしらえて、それをかまどの中に積み始めた。
だが、一水いっすい彼方かなたは、三本木のとりで、川並の砦、杭瀬くいせの砦、大垣の城地と、往来という往来、すべて敵の要塞ようさいでないところはない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は彼自身の手から、彼の保管している要塞ようさいの地図を受け取って、彼の眼の前でゆっくりそれをながめる事ができたも同じでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「第一岬要塞ようさいの南方洋上十キロのところにおいて、折からの闇夜あんやを利用してか怪しき花火をうちあげた者がございます」
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここは八丈島の南、小笠原島の北にあたる碧海島へきかいとうだ。全島絶壁がめぐっていて、まるで自然に出来た要塞ようさいのようである。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
この辺は要塞ようさいが近いので石塀いしべい煉瓦塀れんがべいを築くことはやかましいが、表だけは立派にしたいと思って問い合わせてみたら、低い塀は築いても好いそうだから
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
要塞ようさい門より」とか、「前の家より」とか、「城のあとより」とか、「阿房宮あぼうきゅうより」とか、「隣り村より」とか
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
旅順の要塞ようさいが陥落すると、日本の国内は、もったいないたとえだが、天の岩戸がひらいたように一段とまぶしいくらい明くなり、そのお正月の歌御会始の御製は
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
敵の手をのがれて、これから自由な行動がとれるとばかり思っていたのに、二人が入りこんだのは、敵の秘密の根拠地——おそらく海底に築かれている要塞ようさいらしかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
方形や長方形のぽかんと開いてる多くの穴が、傷口みたいについてる、要塞ようさい式の家、裸壁の大きな面、その面からはただ一つの窓の所へ、不意に大きな露台が飛び出し
けれども、ニールスがとうや、港の入口をとざしている要塞ようさいや、たくさんの建物や、造船所ぞうせんじょなどをちらっとながめたとき、アッカはひらたい教会の塔の一つにいおりました。
かなたの丘には敵の要塞ようさいがあり、すぐ目の前には日本軍の野砲の列、兵士が砲弾を運び、砲口は火を吹き、煙を吐いています。それが敵の要塞に命中し、そこに火災がおこっています。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
スタイヴァサントに従ってクリスティーナ要塞ようさいの包囲戦に加わったことがある。
昨日は白耳義ベルジックナミュウルの要塞ようさいが危いとか今日は独逸軍の先鋒せんぽうが国境のリイルに迫ったとか、そういう戦報を朝に晩に待受ける空気の中にあっては、唯々ただただ市民と一緒に成って心配を分け
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはジャンヌとその百六人の仲間の要塞ようさいであって、一方にはサン・メーリーの防寨を控え、一方にはモーブュエ街の防寨を控え
茫漠ぼうばくたる大河の岸に、ロシアの行政中心の一つとなっている市街がある。街には要塞ようさいがあり、要塞の中に監獄がある。
そのほか、河をようし、谷を利用し、山を負い、いたるところ、敵の要塞ようさいと、敵の旗でないところはない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
珊瑚礁架橋機さんごしょうかきょうきあり、都市防衛電気もうあり、組立式戦車要塞ようさいあり、輸送潜水艦列車ありというわけで、どれもこれも買って行きたいものばかりで目うつりして決めかねる。
英夫はピストルか、鉄砲か、何か身をまもるものがほしかったが、あいにくそうしたものは、要塞ようさい員たちが、みんな部屋の中に持ちこんであるとみえて、見あたらなかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかし様子にはそれと見せないで、用心深く身をよけて、兵士らを通らした。——先ごろから、町の周囲にある要塞ようさいの守備兵らと、土地の者らは暗闘を結んでいたのである。
島の西端にはモールトリー要塞ようさい(4)があり、また夏のあいだチャールストンの塵埃じんあいと暑熱とをのがれて来る人々の住むみすぼらしい木造の家が何軒かあって、その近くには
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
それは一つのやぶであったか、酒神の祭であったか、それとも一つの要塞ようさいであったろうか。眩惑げんわくの羽ばたきによって作られたものかと思われた。
信長の進出に対して、それらの他国の要塞ようさいを、中国防衛の一線に利用して来ただけなのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄とコンクリートでかためたちいさい要塞ようさいで、そのちいさい穴から大砲や機関銃が、いつでもうてるように、こっちをむいているのです。せめてもなかなかおちない要塞です。
電気鳩 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おそらくその海底要塞ようさいなるものから脱出することが出来ないだろうと思っていましたよ、まず無事でいて何よりでした、しかし、どうして海底要塞なんかへ入りこめたんです?
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
強い順風をうけて間もなくモールトリー要塞ようさいの北の小さい入江に入り、そこから二マイルほど歩くと小屋に着いた。着いたのは午後の三時ごろだった。ルグランは待ちこがれていた。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
旦那だんな、一刻も猶予しちゃいけません。」とロールヘンの父は言った。「奴らがまたやって来ますぜ。要塞ようさいへ行くに半時間、もどって来るに半時間……。もう逃げ出すひまきりありません。」
彼らはまったくその中に閉じ込められた。正面は三方に向いていたが、出口は一つもなかった。「要塞ようさいにしてまた鼠罠ねずみわなか、」
かくて、山陰第一の要塞ようさいを誇っていた鳥取城も、自焚全滅じふんぜんめつか、開城降伏のほかはなくなった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、爆薬をそこに仕掛けるとか、或いは、めりめりと、敵の要塞ようさいのかべを破って、侵入する。さぞや敵は、きもをつぶすことであろう。たしかに、そいつは強力な兵器である。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを暴徒らは要塞ようさいとなし兵営となしていて、上から見おろす時には、パリーのまんなかにあけられてる大きな暗い穴のように見えるのだった。
まるで要塞ようさいが海に浮かんだような恰好だと、誰かがいいましたが、そのとおりでした。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天険に人工を加えた陸の要塞ようさい港である。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要塞ようさいのたやすい開城に対して眉をしかめ、パラフォス将軍(訳者注 一八〇八年にサラゴサを護ったスペインの勇将)
「どうやらベルダンの要塞ようさいのような恰好をしている。欧洲大戦のときドイツの……」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ある特点に砲兵を集中させることに、彼の勝利の秘鑰ひやくはあった。彼は敵将の戦略をあたかも一つの要塞ようさいのごとく取り扱い、そのすき間から攻撃した。
「閣下。オロンガボオ要塞ようさいは、まだ占領出来ませんか」別の将校がいた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
貞節を装うことの特性は、要塞ようさいが脅かさるること少なければ少ないほどますます多くの番兵を配置することである。
まるで要塞ようさいに羽根が生えてとんでいるようだ。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてそこを、その要塞ようさいの大砲の下を、通ってゆく時、恐ろしく胸が動悸どうきするのを感じた。彼女は前日のとおり、緞子どんすの長衣と縮紗クレープの帽子とをつけていた。
彼はその神のごとき仁恕じんじょに対抗せしむるに、吾人の心のうちにある悪の要塞ようさいたる傲慢をもってした。
ルーヴィエ島の建築材置き場は、でき合いの大きな要塞ようさいとなって、戦士らが群がった。
王国および軍国の礼儀、騒然たる儀礼の交換、礼式の信号、海上と砲台との儀式、毎日すべての要塞ようさいおよび軍艦から迎えらるる日の出と日没、港の開始と閉塞、その他種々のものが。
内へはいることは到底できません。昼間は住家で、夜は要塞ようさいで、住民は八百人というのがその村のありさまでございます。なぜそんなに用心をするかと申せば、ごく危険な地方だからであります。