衰頽すいたい)” の例文
木彫りの世界はこういうあわれむべき有様でありましたので、私は、どうかしてこの衰頽すいたいの状態を輓回ばんかいしたいものだと思い立ちました。
四十が来ても四十一が来ても別に心持の若々しさを失わないのみならず肉体の方でもこれと云って衰頽すいたいの兆候らしいものは認めないつもりでいた。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人は上下にかれ貧富に隔てられた。のろいを以て語られる資本制度は、その帰結であった。事実が示す如く、工藝美の衰頽すいたいと資本制度の勃興ぼっこうとは平行する。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
春信でて後、錦絵は天明てんめい寛政かんせいに至り絢爛けんらんの極に達し、文化ぶんか以後に及びてたちま衰頽すいたいかもすに至れり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
後年この祭式が衰頽すいたいして、奇怪きっかいな姿をした色々の神霊が出現したことが、『南島雑話』のような外来人の書いたものにあるのを見ると、或る者は意識してこれにふん
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
芸術的小説の衰頽すいたい、大衆文芸の発展は、これを世界中、凡ゆる処に例をとることができる。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
敵の捨ててげたきたない洋館の板敷き、八畳くらいのへやに、病兵、負傷兵が十五人、衰頽すいたいと不潔と叫喚と重苦しい空気と、それにすさまじいはえの群集、よく二十日も辛抱していた。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
じっとすわり込んで、ぼんやりし、がっかりしていた——ただ思い出にふけるばかりで。彼女は自分の衰頽すいたいに気づいていた。それを恥じていた。そして息子むすこにそれを隠そうとつとめた。
同じクライスラーがロンドンの管弦団で入れた後のレコードは、技巧的には衰頽すいたいを見せないまでも、その輝やきと若さと、美しさにおいて、吹込みの悪い最初のものに及ぶべくもない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
れば自国の衰頽すいたいに際し、敵に対してもとより勝算しょうさんなき場合にても、千辛万苦せんしんばんく、力のあらん限りをつくし、いよいよ勝敗のきょくに至りて始めて和を講ずるか、もしくは死を決するは立国の公道にして
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
老齡ろうれい力の衰頽すいたいと、これはかなしい事に如何ともしかたいものだからだ。ぼくは出でてたゝかはざる如き棋士きしは如何なる力ありとも到底とうてい尊敬そんけい出來ぬが、その意味いみでは小菅おうことばに同かんあたはぬでもない。
民藝の衰頽すいたいは工藝品の大部分を殺してしまうことを意味するからである。そうしてこの没落によって「美によって義とせられる王国」は不可能となるからである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私の弟子を取った目的は我が木彫もくちょうの勢力を社会的に扶植しようということにあったというよりも我が木彫芸術の衰頽すいたい輓回ばんかいするということにあったので、したがって
この時はもうすでに衰頽すいたいの極度に達し、しかもその原因を尋ねようとする者はなかったが、歴史に通じないこの旅人には、何故にここがひとたびは栄えて新たな移住者を迎え
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
浮世絵はその錦絵にしきえなると絵本なるとを論ぜず共に著しき衰頽すいたいを示せり。時勢は最早もはや文政天保てんぽう以後の浮世絵師をして安永あんえい天明てんめい時代の如く悠然ゆうぜんとして制作に従事する事を許さざるに至れり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まったく衰頽すいたいした顔だちだった。
そうしてギルドの衰頽すいたい(すなわち資本制度の勃興)と工藝の廃頽はいたいとは併行する。美しい工藝には、いつも協団的美が潜む。離叛と憎悪との社会から、美が現れる機縁はない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これほどにも近世以来のニルヤの観念は激変し、もしくは衰頽すいたいしていたのであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)