つッ)” の例文
横にねて、ずりおりる子供の重みで、するりと半纏の襟がすべると、肩から着くずれがして、を一文字につッと引いた、ぬめのような肌が。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
憤然としてつッと立った。主税の肩越しにきらりと飛んで、かんてらのくすぶったあかりを切って玉のごとく、古本の上に異彩を放った銀貨があった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長襦袢ながじゅばんぱっと燃える、片身を火に焼いたようにつッと汽車を出たその姿は、かえって露の滴るごとく、おめきつどう群集は黒煙くろけむりに似たのである。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雛妓に言付けて、座敷をななめに切って、上口あがりくちから箪笥の前へ引返ひっかえすと、一番目の抽斗ひきだしが半ばいていた。蝶吉はつッと立って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこはまだ、ほんのあかるい、白っぽい番小屋の、あおつッと切って、根岸の宵の、蛍のような水々みずみずしたあかりの中へ消込きえこんだ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あしの軸に、黒斑くろぶちの皮を小袋に巻いたのを、握って離すと、スポイト仕掛けで、つッと水がほとばしる。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はらりとひらめく、八ツ口、もすそ、こぼれず、落ちず、香を留めて、小路をつッと駈け寄る姿。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
坂をするすると這上はいあがる、蝙蝠こうもりか、穴熊のようなのが、つッと近く来ると、海軍帽をかぶったが、なりは郵便の配達夫——高等二年ぐらいな可愛い顔の少年が、ちゃんとうやうやしく礼をした。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
支えたかいなが溶けるように、島田髷しまだせて、がっくりと落ちて欄干てすり突伏つッぷしたが、たちまちり返るように、つッと立つや、蹌踉々々よろよろとして障子に当って、乱れた袖を雪なすひじ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愛吉は穏かならぬ猿眼さるまなこで、きょろきょろと四辺あたりを見たが、たちまちつッと立上った。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俊吉は、ト御神燈の灯をけて、路地の暗い方へつッと身を引く。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)