藪畳やぶだたみ)” の例文
その両側の道具置場には、幾筋かの細い通路を残して、書き割、さまざまの張り物、藪畳やぶだたみなどが、ゴチャゴチャと詰め込んである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
下には椅子テーブルに植木鉢のみならず舞台で使う藪畳やぶだたみのような植込うえこみが置いてあるので、何となく狭苦しく一見ただごたごたした心持がする。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
根笹ねささ青薄あおすすきまじってうるしの木などの生えた藪畳やぶだたみの中へ落ちていばらに手足を傷つけられるかであった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこは入間川いるまがわ高麗川こまがわの二水にはさまれていて、幾ツもの低い岡や静脈のごとき支流の水や、同じような土橋や藪畳やぶだたみや森や池や窪地の多いため、ここへ足を入れた旅人は
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
闇をあてもなく見廻したが、雨や枝や葉をふるわせている藪畳やぶだたみが茂っているばかりであった。と、君江の心の中へ、ピカリとひらめくものがあった。で「小柄!」とつぶやいた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たいへんな数の篠竹は二十や三十の株ではなかった。藪畳やぶだたみを起す風塵ふうじんと同様のき起しは、民さんの顔をまっ黒にさせ、株はまるでどうにも手のつけようのないほど山積されて行った。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その恐ろしさ……道もわからない藪畳やぶだたみや、高草の中を生命いのち限りの思いで逃げ出して行っても、相手はソンナ処に慣れ切っている半野生化した女ですから、それこそ飛ぶような早さです。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四方へ引張つたつなが揺れて、鐘と太鼓がしだらでんで一斉いちどきにぐわんぐわらん、どんどと鳴つて、其でいちが栄えた、店なのであるが、一ツ目小僧のつたひ歩行ある波張なみばり切々きれぎれに、藪畳やぶだたみ打倒ぶったお
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
藪畳やぶだたみをかきさがしたり、書き割を動かしてみたりして、抜け目なく眼をくばりながら、グルッと一巡したけれど、どこの隅にも人影らしいものもない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
合方あいかたゆかの浄瑠璃、ツケ、拍子木の如き一切の音楽及び音響と、書割かきわり張物はりもの岩組いわぐみ釣枝つりえだ浪板なみいた藪畳やぶだたみの如き、凡て特殊の色調と情趣とを有せる舞台の装置法と
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「向うに見える森を抜けると、お屋敷ざかい高塀たかべいがあります。そのどんづまりの藪畳やぶだたみで」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今曲者くせものうたのじゃ」若衆は既に沈着に声も乱さず云うのであった。「すぐ川の側の藪畳やぶだたみ、そこまで来ると覆面の武士が、十人ほどむらむらと走り出て、私に切ってかかったのじゃ。 ...
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
温泉いでゆの口は、お雪が花を貯えておく庭の奥の藪畳やぶだたみの蔭にある洞穴ほらあなであることまで、忘れぬ夢のように覚えている、谷の主ともいつべき居てつきのおうな、いつもその昔の繁華を語って落涙する。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道具方の若者が、足元の藪畳やぶだたみの下敷きになっている、一匹の大きなとらの縫いぐるみを発見してつぶやいた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
提灯の火は邸内の藪畳やぶだたみから植込の中まで潜り、六尺棒は御殿の床下まで叩き廻った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな土竜もぐらと思ったに、わりゃ筑紫権六だな! いつぞや大原の街道を、百地三太夫に逢い損ねブラブラ帰る夕暮れ時、藪畳やぶだたみから手下と共に、現われて出た追剥おいはぎの頭、それがやっぱり筑紫権六
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鐘と太鼓がしだらでんで一斉いちどきにがんがらん、どんどと鳴って、それでいちが栄えた、店なのであるが、一ツ目小僧のつたい歩行ある波張なみばり切々きれぎれに、藪畳やぶだたみ打倒ぶったおれ、かざりの石地蔵は仰向けに反って、視た処
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……吉田玄蕃様の一族で、筋目正しいお父様も、根岸に近い藪畳やぶだたみで、初夏の雨の降る寂しい晩に、人手にかかって殺されました。せっかく妾がお傘を持って、お迎えに道までまいりましたのに。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それからは家続きで、ちょうどお町の、あのうち背後うしろに当る、が、その間に寺院てらのその墓地がある。突切つッきれば近いが、けて来れば雷神坂の上まで、土塀を一廻りして、藪畳やぶだたみの前を抜ける事になる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)