うきくさ)” の例文
想へば、氣高けだからふたけたる横笛をうきくさの浮きたる艷女たをやめとはひがめる我が心の誤ならんも知れず。さなり、我が心の誤ならんも知れず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
真っ青なうきくさが一杯伸びて、音立ててその上を吹き渡っていく真昼の風があった。その池のへりにポカンと圓太郎が佇んでいた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
何しろ江戸表はくつがえりそうな騒擾そうじょうだったらしいが——そんな噂を途中で聞いても、うきくさぐらしの権十にとっては、おかの地震のようにしか考えられなかった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、見かけほど悲劇的な性格もなく、どこかのん気でおろかなところがあつて、情操的にものを突き詰めては考へられなく、うきくさの浮いたところがあつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
私情をして大法の外にほしいまゝなる運行をなさしむることあるなし。私情の喜は故なきの喜なり、私情の悲は故なきの悲なり、彼の大琴に相渉るところなければ、根なきうきくさの海に漂ふが如きのみ。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
驚駭おどろきのあまり青年わかものは、ほとん無意識むいしきに、小脇こわきいだいた、一襲ひとかさねの色衣いろぎぬを、ふねむかつてさつげる、とみづへはちたが、其処そこにはとゞかず、しゆながしたやうにかげ宿やどうきくさたゞよふて、そであふ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うきくさに膏雨底なく湛へけり
普羅句集 (新字旧仮名) / 前田普羅(著)
只遊ぶうきくさも経る月日かな
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うきくさを吹き集めてや花筵はなむしろ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
晩涼ばんりょうに池のうきくさ皆動く
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
那珂郡なかごおりのさる所に、仮に妻子と家人共は置いております。——が、自分は京都とこの地方を往来しているので……まあ、うきくさのような境遇ですな。はははは」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蝶子さんを見ると、流れに任せてなよ/\と、どこの岸にでも漂い寄って咲けるうきくさの花の自然の美しさを感じずにはいられない。弱いものゝ持つつよみを感じられずにはいられない
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
路傍みちのべの柳は折る人の心にまかせ、野路のぢの花は摘むぬし常ならず、數多き女房曹司の中に、いはばうきくさの浮世の風に任する一女子の身、今日は何れの汀に留まりて、明日あすは何處の岸に吹かれやせん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
うきくさを吹き集めてや花筵はなむしろ
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
だが、江口の草笛は、水辺のうきくさに似て、もう、とうにそこにはいなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)