荒莚あらむしろ)” の例文
ある時、葛籠屋つづらやの店蔵に荒莚あらむしろを敷いた段をつくって、段上に丸鏡とさかきと燈明をおき神縄しめを張り、白衣の男が無中になって怒鳴っていた。
更に雪明ゆきあかりですかしてると、土間の隅には二三枚の荒莚あらむしろが積み重ねてあったので、お葉はこれ持出もちだしてかまちの上に敷いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
関翁を先頭せんとうにどや/\入ると、かたばかりのゆか荒莚あらむしろを敷いて、よごれた莫大小めりやすのシャツ一つた二十四五の毬栗頭いがぐりあたまの坊さんが、ちょこなんとすわって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
裲襠うちかけ、眼も眩ゆく、白く小さき素足痛々しげに荒莚あらむしろを踏みて、真鍮の木履ぼくりに似たる踏絵の一列に近付き来りしが、小さき唇をそと噛みしめて其の前に立佇たちとまり
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
柱は竹を堀り立てたばかり、屋根は骨ばかりの障子に荒莚あらむしろをかけたままで、人の住むとも思われぬが、内を覗いてみると、船板を並べた上に、破れ蒲団がころがっている。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
右にも左にも山がそびえている。谷底に三人の異様な風をした男が一人の男をつれて来て、両手を縛って、荒莚あらむしろの上に坐らせて殺そうとしている。三人の悪者わるもの眼球めだまは光っていた。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お新の死体は、石井家の奉公人に相違ないので、切戸から裏庭へ持込まれ、まだ検死前で、荒莚あらむしろをかけたままにしてあり、側には湯島の吉が、むつかしい顔をして番をして居ります。
頭立った役人は、処刑しおきの場所を選定して、そこに二枚の荒莚あらむしろを敷かせ
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遥か向こうの下手しもての方に、荒莚あらむしろのたれが見えていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
続いて眼に触れたのは醜怪なる𤢖わろ三人の屍体で、一人いちにんは眼をつらぬかれた上に更に胸を貫かれ、一人は脳天を深くさされて、荒莚あらむしろの片端をつかんだまま仰反のけぞっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
頭上ずじょうの星も、霜夜も、座下の荒莚あらむしろも忘れて、彼等もしばし忘我の境に入った。やがてきり〻〻と舞台が廻る。床下ゆかしたで若者が五人がゝりで廻すのである。村芝居に廻り舞台は中々贅沢ぜいたくなものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見ると自分と並んで荒莚あらむしろの上にひき据えられている女の囚人がある。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かすか唸声うなりごえが左の隅に聞えたので、彼は其方そのほうへ探って行くと、一枚の荒莚あらむしろが手に触れた。莚を跳退はねのけて進もうとすると、何者かその莚のはしを固く掴んでいるらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
検視の役人がまだ出張しないので、死骸は岸の桜の下へ引き揚げたままで荒莚あらむしろを着せてあった。吉五郎はそっと眼をくばると、人込みのなかに兼松のすがたが見いだされた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)